第15回 愛媛県水産試験場 訪問記
愛媛の海岸線は延長1,625キロメートル、全国で5番目の長さである。県全体での水産業の水揚げは17万,5000トン、生産額は全国第三位の1,510億円に上る。(平成6年)愛媛は名実ともに海の国なのだ。
今回は豊かな愛媛の海を見守り、海洋資源の保護育成を研究調査や技術開発で支える宇和島市の愛媛県水産試験場を訪ねた。
三浦半島の先へ
宇和島市内を過ぎ、国道56号線から三浦半島という標識に従って、県道37号線へ入る。坂道を上り、無月トンネルを抜けると海が見えた。少し走り、切り通しを下ると、船隠という集落だ。船を隠すというのは、いかにも入江にふさわしい地名だなどと、ふと思う。宇和海はリアス式海岸の見本のようなもので、鼻と呼ばれる小さな岬がいくつも突き出し、その鼻に囲まれた入江にそって走る道は、右へ、左へと、小さくまわり、アップダウンも多い。そんな道を日本一の真珠養殖の筏を眺めながら20分も走れば、宇和島市下波、狩津トンネルのすぐ手前にある、愛媛県水産試験場に着く。現在の下波に栽培漁漁センターと共有の施設が完成したのは17年前の昭和55年のことである。まず、本館を訪ねて河野慈敬場長に、概要をお伺いした後、佐野隆三前場長に場内を案内していただくことができた。
農牧業の
ような漁業
先ず、本館内にある海洋牧場の大きな模型を見る。海洋牧場は全国初のテストケースで、海底に人工の衝立構造物を設置して湧昇流を発生させ、海底付近の栄養に富んだ海水を水面近くまで浮上させて餌の豊富な漁場をつくる。その海に、栽培漁業センターで親魚を飼育して採卵、生簀で育てた稚魚を放流し、成長後、採取するというものだ。今までに放流されたシマアジの稚魚は100万尾を超えた。回収率は約6パーセント近くとのことである。それにしても、ここでは、稚魚は種苗と呼ばれ、漁場を牧場と言う。認識不足といえばそれまでだが、海に乗り出し魚を追いかけるという「漁どり(すなどり)」のイメージとは違った、農業的で、定着的な新しい漁業観がすっかり現実のものとなっているのに驚いてしまった。
外に出て、栽培漁業センターの稚魚飼育槽を見せてもらう。ここでは、マダイ、クルマエビ、アワビ、イシダイ、イサキ、シマアジなどの「種苗」を主として放流用に飼育している。マダイの稚魚は、ほんの2、3ミリなので目を凝らして見ないと藻くずのようだ。
生簀に出てマダイやシマアジの親魚を見た。マダイはやや色が黒い。これは天然魚に比べて日の光を浴びる時間が長いせいだそうだ。構内奥にある実験棟では、成長に時間がかかるオコゼの飼育実験やマハタの稚魚の飼育などが行われていた。水槽には海水を取り込んであり、室内には潮の香りが強くただよっている。床にも海藻が生えていてよく滑る。私はオコゼの水槽の前で大転倒するという失態をやらかしてしまった。
「宇和海はきれいです」
6月19日、調査船「よしゅう」に同乗させていただいた。「よしゅう」には、土居達夫船長ら7人の乗組員と小泉主任研究員が乗船し、毎月1度、宇和海、伊予灘、燧灘の愛媛県全海域を定点調査している。今日は赤潮の調査、海底の泥の採取、定点での水温、透明度、電導度などの測定を行う航海だ。下波を午前8時半に出航。接近中の台風七号の影響もなく青空が広がっている。数分後、養殖筏のすぐ近くで、早速、調査ポイントと水深が船内にアナウンスされた。左舷では、バケットで海底の泥が採取される。匂いの強いヘドロを洗い流し、底生生物を採取する。船尾の方では透明度を図る。右舷では、赤潮調査。沖合に出ると養殖筏もまばらになる。黒島、御五神島、日振島、ハマユウが群生する沖の島など宇和海の美しい島々が間近に見えてきた。海の透明度も上がってくる。ポイントを移しながら、調査を続け、午後2時前に下波に帰港した。上陸後、小泉主任研究員に少しだけお話を聞かせていただいた。「海が汚れると海底に棲む生物の種類がどんどん減っていくんです。ひどいときは汚れに強い1種類だけになってしまいます。多様な種の生物が棲む海がよい海です。宇和海は全体としては、まだまだきれいですが、部分的にはひどく汚れている場所があります。海がもとに戻らないくらい汚れることの恐ろしさを科学的に示し、理解を得ていきたいと思っています」とのこと。わずか半日の航海ではあったが、生活の糧を生み出す豊かな海を守るために、継続的に漁場の状況を見守りデータを蓄積して漁業者や県民にフィードバックする試験場の役割の大切さを強く感じることができた。
夏休みに水産試験場で体験学習を!!
●日 時 8/2(土)9:00~12:00
●内 容 調査船「よしゅう」による体験航海
●申込方法
ハガキに住所・電話・氏名・年齢・性別を記入して、〒798-01 宇和島市下波 愛媛県水産試験場へ。
7/26必着。お問い合せ/TEL0895-29-0236
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