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第21回 子供たちの「お茶会」
 
内子町八日市 
 内子町の江戸時代末に建てられた町家の座敷で子供達がお茶を習っているという。小学2年生から始めた六角麻未ちゃん(下写真右端)は休まず続けて、もう6年生。全国に知られた内子の町並みを訪ね、伝統的な建物を活用した子供達の茶の湯のお稽古を見学させてもらった。

 町並みを歩く
 内子町の六日市(本町通り商店街)の東の端を北に曲がると坂町である。道はここからゆるやかな登りになり、軒の深い平入りの町屋の連なりが見え始める。軒の高さが揃い、空が開けている。何度見ても、落ち着いた美しい町並みである。昭和57年に国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された地域だ。坂町から、八日市、護国へと、旧街道に沿った延長約600メートルあまり、約3.5ヘクタールの広がりの中に75棟の古い町家が建っている。「多くの家は、軒が深く、土間は3方を切石で囲み三和土で仕上げられる。正面の意匠は必ずしも一定ではないが、ほとんどの家が軒線を揃えた平入り2階建てであるためか、整然と建ち並ぶ姿が美しい。寛政2年(1790年)に建てられた大村家と、少し遅れているが米岡家(※町家資料館)が古く、他のものは江戸末期から明治時代のものが大半を占めている。どの家も大正期以降に部分的に改造されてはいるが、下屋根にはT字型の袖壁があがり、開口部には蔀戸や大戸、さらに塗り込められた格子や連子格子が内子の特性をよく表している」(『歴史の町並み』NHKブックス昭和62年)と岡田文淑氏が書いている通りだ。和蝋燭の5代目大森弥太郎さんの店や町家資料館などに立ち寄りながらゆっくりと坂を上る。坂の突き当たりが鍵の手になっている。昔、一揆や打ち壊しに備えるために人為的に作ったもので「枡形(ますがた)」という。その「枡形」を過ぎると道は再び平坦になり、ここからが八日市である。道の東西両側には、外壁を厚い漆喰と土で塗り込められた町屋がさらに続いている。
 子供たちの「お茶会」
 子供達がお茶を習っている下岡家は、内子の町並みの中でも、ひときわ豪壮な本芳我家のちょうど前にある。お隣の高畑家と、正面の意匠も間取りもほぼ同じである。共に元は本芳我家の隠居所と事務所であったといわれる建物で、江戸末期安政元年(1854年)頃の建築といわれている。
 玄関に入り「ごめんください」と声を掛けた。お茶を教えておられる岡田かな子さんが奥から出てこられ、私たちを招じ入れて下さった。茶席のお座敷へ続く廊下の、壁の隅にすす竹の短冊掛けが吊されており、「冬籠(ふゆごもり) 又 寄りそはむ この柱」という句がはさまれていた。廊下の突き当たりに石灯籠と小さな池のある中庭がある。中庭に面した裏座敷で、ちょうど内子中学1年生の藤岡諒君が身支度を整えていた。学校の帰りだからジャージの下に紺の袴をはいた姿である。藤岡君は、靴下を履き替え、つくばいで手を清め、口をすすいだ後に茶席に入った。もう小学生の女の子が2人席についていた。藤岡君はきょうはお当番なので、岡田さんに挨拶した後、水屋にもどってお菓子の準備である。しばらくして、薄茶のお手前の稽古が始まった。子供達は真剣である。一生懸命集中している。岡田さんは子供達の所作を見ながら穏やかに「そこはね」と言ってゆっくりと直される。お茶の基本を抑えた上で、子供達がお茶を楽しんで学べるようにという岡田さんの自然な配慮のせいであろう、お稽古を始めて途中でやめた子は1人もいないそうだ。
 岡田さんや下岡さんと子供達の気取らず自然で、清々しく、あたたかい「お茶会」を拝見していて内子の美しい町並みが守り伝えられるかたちを目の当たりにする思いがした。きちんと修復された内子の伝統を伝える町家に子供達が集まり、お母さんやお祖母ちゃんたちと一緒に茶の湯を習う。地域の文化のアイデンティティを豊かに築いていくということはこういうことなのではないだろうかと、心から思った。

〈参考〉
『内子の民家と町並み』(内子町発 行1991年)、『住宅建築』1996年11月号、『造景』1996年2月創刊号、『歴史の町なみ』保存修景研究会西川幸治編NHKブックス)

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1996-2012


お稽古の後の子供たち
右より六角麻未ちゃん、門田さやかちゃん、小野植真吾君、藤岡諒君、宇都岡祐志君
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坂町
突き当たりが「枡形」。
美しい町家が連なる旧街道が通学路になっている。

下岡家(右)と高畑家

坂町の町家資料館(旧米岡家)

五代目大森弥太郎さんの和蝋燭の店

炭をつぐ岡田さん

お道具拝見
宇都岡祐志君(左)、小野植真吾君

下岡家の中庭。つくばいで手を清める藤岡君

お菓子の準備

大村家、本芳我家と重文の民家が連なる八日市の町並み

半東をつとめる六角麻未ちゃん

廊下の壁に短冊が