過去の連載記事
同じ年の連載記事




第13回 ラグビーの町 久万で
 
 
 平成3年、高原の町久万にラグビー場が誕生した。
 ラグビーは合宿期間の長いスポーツであることに注目し大量宿泊客誘致による活性化をめざす町とラグビー協会がスクラムを組んで実現に至った。清涼な気候と芝が貼られたグランド、そして誠実なホスピタリティがラガーマンたちの心をつかみ、久万はすっかりラグビーの町になった。

 ラグビーの町
 南アフリカのワールドカップ以来、日本のラグビー人口はどんどん減っているという。特にサッカーや野球に比べると底辺の競技人口は比較にならぬくらい少ない。愛媛県でも例外ではなく中学校でラグビー部があるのは北条と愛光などほんの数校に過ぎず、少年ラグビースクールは中予にしかないそうだ。いまや、ラグビーをやるものはすっかり、マイノリティーになってしまったかのようなのだ。
 しかし、何度か久万町を訪れるうちに、そういった世間の動向がウソのように思えてきたからふしぎである。久万高原ラグビー場という木の看板に従って国道を曲がり、ほんの数分走れば、山裾に立派なラグビー場があった。芝が貼られた手入れの良いメイングランド。クラブハウスは木造のコテイジ風で、トライショップという売店まである。スタンドには、重厚な丸太でつくった見事なベンチが据えられ、その背後にはサブグランドがあった。照明設備ももちろんある。3月末には今年も久万町の主催で久万町長杯ラグビーフットボール大会が行われた。県内だけでなく西日本一円から16の高校チームが集まって熱戦を繰り広げた。四月20日には高校四国大会の県予選1回戦が行われ県内八チームが参加した。春から町はラグビー一色なのである。
 合宿の長いスポーツ
 久万町教育委員会の橋本広綱次長は久万高原ラグビー場開設を手がけられた初代の担当者である。現在は、ラグビー場と国道をはさんで、ちょうど真向かいに新築された町立図書館の開催準備に多忙な橋本さんにラグビー場開設当初のお話をお聞きした。「実は僕はサッカーをやっとったんですよ。だから、実はサッカー場をつくりたいと思っていたぐらいなんです。ところが、いろいろ調べたらスポーツの中でいちばん合宿期間の長いのがラグビーなんですよ。それで、長期滞留型の高原リゾート開発の一環としてラグビーをやろうということになりました」。橋本さんたちはラグビー合宿のメッカ長野県菅平や、大分の湯布院などを見学に訪れた。新田高校の福沢監督(当時)と一緒に岐阜県の数河にも行った。合宿用ラグビー場は西日本では九州の湯布院だけで、四国には全然ない。ラグビーだけでなくテニスや他のスポーツ合宿との共存が可能である。充分な事前調査の結果、成算有りとの自信を深めた久万町は河野町長が中心となり、県のラグビー協会の協力を得て一気呵成に開設にこぎ着けたのである。
 開設の翌年、平成四年度には、早くも春夏で、延べ3,500泊、4,100人のラガーマンが合宿で久万を訪れた。後に関東学院大学に進み日本代表にも選ばれた、当時松山商業2年の仙波優選手がその中にいたそうだ。橋本さんは「毎年、合宿に来る子供らと付き合ううちにラグビーがだんだん好きになったし、強うなるチームかどうかが少しずつわかるように」なった。「先生が厳しういうて管理、管理で締め付けて練習させるチームは意外にだめなんですよ。先生が特にいわんでも2時間の練習時間の間にキャプテンが中心になって自分らでメニューをこなしていくところがやっぱり強くなりますね」。ラグビーのコンタクトプレーの良さに目覚めた橋本さんは、今では大のラグビーファン。現在は久万町の知のインフラ整備である図書館の開館準備に全力投球だ。新図書館にはCDやビデオもある。林業の町なので林業関係図書のコーナーも充実させる。ラグビー関係のビデオや図書もきっと備えられるに違いない。
 スプリングボクス?
 4月20日の日曜日、久万高原ラグビー場で、四国大会県予選の1回戦を観戦した。なんと、世界最強南アフリカのスプリングボクスそっくりのジャージを着た若者たちがいる。胸のエンブレムを見て驚いた。県立八幡浜高校ラグビー部だった。部員は今年の1年を入れて20人。部長の渡部浩二先生は、この春の異動で着任したばかり、サッカーが専門で、ラグビーは未経験だ。練習のメニューは、三瀬キャプテンが決め、自主的にやっている。試合前、サブグランドでアップ中の三瀬君のところに、あいテレビのアナウンサーがインタビューにやって来た。「ラグビー人口が減っているのはどういう理由だと思いますか」という趣旨の質問である。三瀬君ははっきりと答えた。「ラグビーは痛いとか、恐いとかいう偏見じゃないですか」。1回戦は大差で八幡浜高校が勝った。彼らは、まるで本家のスプリングボクスのようによく走り、強かった。


春夏のラグビー合宿の問い合わせは 

〒791-12  愛媛県上浮穴郡久万町大字久万町
 久万町役場商工観光課
 渡部 泰則係長まで
 取材協力/久万町役場商工観光課

八幡浜高校ラグビー部

Copyright (C) TAKASHI NINOMIYA. All Rights Reserved.
1996-2012


チャージ。久万町長杯大会、松山東高対米子東高。僅差の好ゲーム。
それぞれの写真をクリックすると
大きくなります



女子マネジャー

図書館開設準備に全力投球の久万町教育委員会橋本広綱次長。新しい木の香りが心地よい館内には小さな音量でモーツァルトのピアノソナタが流されていた。

快走する松山商業のウィング

八幡浜高校ラグビー部 (サブグランドで)

八幡浜高校ラグビー部 1回戦大勝後の反省会
うしろにクラブハウス

カットイン

フッカー平田君のトライ

三瀬キャプテンの突進

テレビ取材に答える八高
三瀬キャプテン

モールを押す八高

ラインアウト

スクラム
松山東対新田