第90回 新版八幡浜魚市場めぐり
愛媛県八幡浜市
市場が人を、町を元気にさせることは洋の東西を問わない。わが八幡浜には、四国一の魚市場があって、活きのいい人と魚が行き交い、セリ人のテヤテヤというかけ声とともに生き生きとした風を町に送り続けている。
八幡浜魚市場
名実ともに四国一の魚市場として知られる八幡浜の魚市場は、昭和50年の水産物産地流通加工センター形成事業で延べ面積7,945.49平方メートルの市場を新設した。その後取扱量、取引額ともに上昇を続け、取扱い量は市場新築5年後の昭和55年に47,751トン、金額では10年後の昭和60年に約147億円というそれぞれのピークに達した。しかしながら、水揚げと取引額がおのおののピークを迎えた後は、それぞれが年を追って減少傾向をたどり、昨年の平成14年には取扱量13,439トン、金額では約63億円に落ち込んでしまった。ただ、減少のカーブは徐々に勾配を緩めて、やや落ち着きを見せ始めているので、将来に光が見えぬわけではないという。
水揚げの中心は、沖合底引き網漁2,985トン、巻き網漁2,640トン、小型底引網漁2,579トン、養殖は480トンである。魚種別の水揚げ量を見ると、1位がアジ類の1,784トン、2位がイカ類1,603トン、3位が太刀魚の1,499トン、4位がかまぼこの材料になる、えそ類919トン。5位がたい類517トンである。金額では、えそは7位たいが3位、太刀魚が4位さば(水揚げは7位の393トン)が5位に顔を見せる。食卓でおなじみの大衆魚がまさしく、この市場の取引の中心であるといって間違いないであろう。
出かけよう
7年前に市場の中で一般消費者にも魚を直接売っている仲卸売場のお店を訪ねたことがあった。今回、再訪してみると、引退された鈴永鮮魚さん、ご主人が亡くなられたひぐち鮮魚さんの他はすべて健在で、かわらぬ商売を続けられていて心強いかぎりだった。数字はともかくとして、約700人の人が働く大衆のための魚市場は、痩せても枯れても元気なのである。
一般の家庭では、魚市場に出かけて魚を買うことはあまりない。スーパーや行きつけの魚屋さんで求めるのが日常であろう。しかし、たまには、誘い合って魚市場に出かけるのも悪くない。八幡浜の魚市場は土曜日が休みで、1週間は日曜日から始まる。日曜日に、家族を連れ、あるいは友人と連れ立ち、長靴を履き、買い物かごを下げて出かけてみてほしい。市場の気取らず、活気の溢れた雰囲気に触れると、元気が湧いてくること請け合いだ。
仲卸売場
八幡浜魚市場の海に向かって右端の部分、卸売場に隣接した仲卸売場には20軒以上の魚屋さんが、真ん中に通路をはさみ左右2列に並んでいる。朝6時からセリが始まるとすぐに卸売場で仕入れた活きのいい魚が、一斉に店頭に並べられる。どの店も魚の活きがいい上に、種類も驚くほど豊富で、値段もはっきりいって市中に比べて大分安いのである。
とはいえ、始めて市場の仲卸売場に来ると、どの店の品揃えもほとんど、同じに見える。迷ってしまいそうだ。でも大丈夫。実際にどこで魚を買っても値段と新しさには変わりはないし、どの店のご主人も相談すれば丁寧に魚のことを教えてくれるので何の心配もない。1軒、1軒まわっていれば、ご主人の個性やその店の品揃えの特徴なども見えて来て、そのうち自分の好みの店が出来てくる。遠くの友に宇和海の味を送ろうと思えばクール宅急便の用意まである。(
伊予細見連載90回記念八幡浜魚市場案内参照)
まだ八幡浜魚市場に出かけられたことがない方はぜひ、1度訪ねていただきたい。
どこの店のご主人も一様に、「魚なら何でもある。大衆魚が中心です」と言われるが、ほんとうに、ここには、大衆のための安くて、おいしくて、新しい、旬のお魚がいつもピチピチ跳ねている。どのお店で魚を買っても、大衆という言葉のたしかな手応えを充分に感じさせてくれるだろう。いや、それだけではない。ふるさとの海の幸の豊かさを生き生きと感じて、都会に住む友人達に自慢してみたくなるに違いない。活きのいい魚を扱う人々の威勢のいいかけ声や、温かい気遣いにふれて、気分がせいせいし、元気までわいてくる。さあ、日曜日は魚市場にでかけよう。八幡浜に住むことの大きな幸せの1つは、確かに魚市場が町にあることなのだと思う。
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