2006年08月号 掲載
カルアルー ブラジル・ペルナンブコ州
関 洋人 (大洲市在住)
セルタンの風景
レシフェを朝九時に出発し、車で内陸に一三〇キロメートルくらい入るカルアルーの街へ向かった。
カルアルーはセルタン(ブラジル北東部の内陸部に広がる,半乾燥地帯)の首都と呼ばれている人口二十五万程の街である。
レシフェの街を出て、三十分か四十分は、道路の両側に、緩い起伏のあるサトウキビ畑が広がっているが、少し走り、ちょっとした峠を一つ越すと、緑が極端に少なくなる。車窓から見える風景は、道を進むに従って、徐々に褐色と灰色に支配されるようになり、辺りは、サボテンの点在する半砂漠地帯の様相を呈してくる。
ほとんどの日本人が持つブラジルのイメージとはほど遠い、砂漠のような風景の中を、更に一時間近く走ると、 道が少しずつ下り始め、前方にカルアルーの街が見えて来た。街もどことなく周囲の殺伐とした風景に溶け込んだような色合いである。
カルアルーには、ブラジル北東部最大といわれる有名な青空市がある。街に入って、その市場の全貌を小高い丘の上から眺めてみた。なるほど巨大である。
実際に青空市に入った時刻は、十一時を過ぎており、早朝の賑わいは既に去り、人出はそれほどでもない。迷路のような市場の中には、この地方特有の果物、ジャンボウとシリゲイラ、薬草や香辛料、特産の泥人形、魔除け、など興味を引く品々を売る小さな店がひしめきあっている。
市場を歩いていたら、いきなり、パンデイロ(タンバリン)を叩きながら即興の歌を聴かせることを業とする「パンデイレイロ」と呼ばれる男が近寄ってきた。ブラジルには日系人が百万人以上いるが、その、ほとんどが、サンパウロ・パラナ・パラの三州、特にサンパウロ州に集中していて、ここブラジル北東部には極めて少ない。めずらしい日本人のツーリストを目敏く見つけたのであろう。その「パンデイレイロ」が私たちのために歌ってくれた歌が、「日本人は頭が良くて、なんとかかんとか……」というヨイショの歌であることはわかったが、私のポルトガル語の能力では細かいところまでは理解できない。でも彼の歌には、一ヘアルくらい渡すのが、礼儀だろう。パンデイレイロたちは、こうやって、日がな一日顧客をもてなす歌を唄い、口を糊しているのである。
(つづく)
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