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2002年07月号 掲載

 
オアハカ メキシコ南部山岳地帯 
関 洋人 (大洲市在住)

ソカロの「靴の塗り変え屋」さん
 メルカド徘徊に少し疲れたわれわれは、ソカロに向かったが、そこで珍しい商売を見つけた。靴の色を塗り変える商売である。遠くから見ると普通の靴磨きにしか見えなかったが、近寄ると塗料で客の靴の色を塗り変えているので、びっくりした。ちょうど居合わせた客は紫色に塗り変えてもらっている。「塗り変え屋」の男は「一分で乾くし、色落ちしない」と自信たっぷりだったが、果たして大丈夫だろうか?
 ソカロを過ぎて民芸品市場に向かう。道すがら、通りに面して、ローソク専門店、棺桶専門店などさまざまな店舗が並んでいて興味は尽きない。ドクトルが、一軒の小さな靴屋の前で立ち止まり、中に入った。店の主人は、靴の品定めをするドクトルの足元をやけにジロジロと見ていたが、急にニヤニヤしながら店の奧に消えた。彼は妻を連れてすぐにわれわれの前に戻ってきた。そして、ドクトルの足元を指さしながら、二人で笑い転げている。なんのことはない。この夫妻にとっては、ドクトルのはいている一本ずつ指が分かれた水虫患者御用達の靴下が珍しく、たまらなくおかしかったのだ。民芸品市場には、サラッペ(純毛の毛布)売りの集まる一画がある。ドクトルはサラッペが大好きで、粘り腰の値切り交渉はなかなか堂に入ったものだ。つられてK君もH老人も一緒にサラッペを買ってしまった。
 民芸品市場を出てホテルに戻る途中また、メルカドの前を通った。H老人がくだんのオアハカビーフの屋台を眺めて、突然「ちょっとあそこに行って食べてくるよ」と宣う。一同、懲りないなあと感心する間もあらばこそ、今度はきちんと、メルカドの入口でトルティージャ売りの婆さんからトルティージャを買っている。そして自分で肉を焼き、トルティージャに挟んだ。やっとこさ念願のオアハカビーフを賞味したH老人の感想は「これ固いな。旨くねえや」。帰り際に先刻H老人がトルティージャを買った老婆の前を通った。たまたま地元の人がトルティージャを買って代価を支払っているところで、私の耳にトルティージャの値段が聞こえてきた。H老人が婆さんに支払った額の半分である。この婆さんもなかなかやるな。しっかりとハポン(日本)のリコ(金持ち)からはきっちりと取っている。婆さんの立場なら当然だろう。二倍ならまだ良心的な方かもしれない。
(つづく)

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