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2001年02月号 掲載

 
ペルー・アマゾニア紀行 11
関 洋人 (大洲市在住)

元気なパリのおばあさんの後姿
 十二月二十八日、今日も、朝七時前に起きドクトルと一緒に、ベレン市場へ散歩に出かける。まず中年の女性が店番をしている屋台でジュースを飲んでから、広大な市場の中を走る細い路地をうろうろと歩きはじめた。もう、ここに来るのは四度目になるが、いまだに全貌がつかめない。歩いているとやたらと猫が多い。いたる所に魚の切れ端が散らかっているので食べるものに不自由することがないからだろう。ふと、クスコで猫を一匹しか見かけなかったことを思い出した。クスコではクイ(モルモットのような食用の小動物)を飼っている家が多いのでクイを襲う猫を飼っている家は極端に少ないのである。市場でも猫に出合わなかった。
 雑踏を楽しみながら、市場の入口近くに戻って、美形のお姉さんの屋台に寄る。チーズサンド四個とジュース二杯で勘定は計4soles。
 いったんホテルに戻って、十時前にセルバ・ツアーに出かける。このツアーを主催している旅行社の王(わん)社長に五十ドルを支払って、十時過ぎにナナイ河にある港から船に乗った。中年ガイド一人と英語の入門書を携えひまさえあればそれを開いているガイド見習が一人の他にツアーに集まった客が約十人。中にひときわ騒々しいパリからきたおばあさんがいた。このおばあさんは、最初から賑やかであったが、船が出て、時間がたつにつれてますますかしましくなった。隣にすわって辛抱強く相手をしていたガイドが、スキをみてそっと席を立ち離れていった。
 このあたりは雨期と乾期の水位差が五メートルから六メートルもあるため、河辺に建つ家は全て高床式になっている。二十分ほどで船はナナイ河とアマゾンの本流が合流する地点にさしかかった。合流地点のアマゾン本流の川幅は三キロメートルから五キロメートル。河口付近では百キロメートルあるから驚くことはないがそれでも広大な風景である。ナナイ河の水の色は暗褐色で、アマゾン本流は明るい茶色である。二つの異なる色の流れがしばらく混ざり合わずに流れている。マナウスで、はるかに大規模な同じ光景をを眺めたことがあるからさほど感動はしなかった。
 十時四十分に着岸し上陸。セルバに生い茂る熱帯の樹木、グァバ、サポチ、バナナ、そして様々な種類の椰子を見る。この種のツアーの常套で、近くの民家に立ち寄って、熱帯の暮らしぶりを拝見する。家の中には椰子の繊維で作ったハンモックがいくつか吊されていて、その内の一つに赤ん坊が眠っていた。家の裏手のユカイモ畑の周囲には香辛料のジンジプラント、カシューナッツの木、アイスクリームに使う大きな豆のとれるパカイの木や、おなじくアイスクリームに使うマウリティア葉のとれるビルエラなどが植えてあった。
 鰐の養殖池を見て船に戻り、小さな支流ナポ川を遡り、さらにその支流シンチクイ川に入った。十二時過ぎに休憩場所のジャングルロッジに到着。庭にトゥカン(オオハシ)やインコがうろついている。一休みして、ジャングルを散策。蔓を切ると切り口から水のしたたる植物モテロ、煎じると強壮剤になるサナンゴとジンジの花。葉陰にひそむタランチュラや、木の葉をかみ切って巣穴に運び、そこでキノコを栽培することで知られる「葉切りアリ」なども見られた。興味はつきなかったが蚊の攻撃がすさまじいのには閉口する。


ヤヌア族の酋長
 しばらくしてヤヌア族の集落に到着した。矢で的を射抜くショーなどを見る。くだんのパリのばあさんは絶好調でカシキ(酋長)と意気投合……。というか、ばあさんはカシキにつきまとって離れない。ガイドが「彼には二人の奥さんがいるが、三人目になったらどうか」とばあさんに勧めている。ばあさんもまんざらでもなさそうで、カシキの身につけている装束を頭飾りから腰ミノまで一切合財買い取ってしまった。一式、身につけてシャンゼリゼを歩けばさぞかし受けるに違いない。
 午後一時すぎにロッジにもどって昼食。ナマズのフリッタ、ユカイモ、コラソン・デ・パルミット(ヤシの心臓という訳の分からない名前でカンピョウに似た形と口当たり。これはうまい)。ばあさん、食事のときだけは静かである。
 私は婆さんがこの旅行に出かけている間、ホッとしているに違いないパリの家族の様子をつい想像してしまった。
(つづく)

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