1997年08月号 掲載
コチャパンパ(ポリビア共和国)
関 洋人 (大洲市在住)
カンチャのコメドール(食堂)
再び、われわれはコチャバンバ最大のメルカド(市場)カンチャをめざした。というのも、ある捜しものがあったからなのだ。カンチャは、大メルカドだから内部はまるで迷路のよう。その中を人に尋ね尋ね、捜し歩く。
突然メルカドの一隅に、黒褐色にひからびた三十センチ位の怪しい物体がずらりと吊されている。あった!リャマ(アンデス高地に棲むラクダ科の動物)の胎児のミイラだ。乾燥しきっているが、鼻を近づけると蛋白質の変性した独特の臭気がある。値段は一体が四ドル。このミイラの、最も一般的な用途は、家を新築したときに床下の敷地に埋めるというものである。地の神「パチャママ」への供物として捧げ、それによって家内安全を願う、いわば魔除けの一種と思ってもらえばよい。埋めずに、他の呪術用品と一緒に焼くこともあるらしいが、とにかくこのミイラはボリビアの伝統的呪術(callawaya)に不可欠なものなのだ。
カンチャの一隅に吊されたリャマの胎児のミイラと友人のドクトル
この一隅だけでも、リャマの胎児のミイラを売る店が十軒程あり、それぞれの店に何百体というミイラが吊されている。一体どうやってこんなに大量の胎児のミイラを仕入れるのだろう。わざわざ妊娠したリャマを殺して胎児を取り出すのかとも考えたが、リャマがここの住民にとって非常に貴重な財産であることを考えあわせると経済的には割があわないのではないだろうか。呪術用品を売る店で聞いてみたが、確たる答えは得られなかった。今後の研究課題である。こりゃあ、もう一度コチャバンバへ戻ってくることになりそうだ。
リャマの胎児のミイラは持ち帰って、診療室の玄関先に吊そうかとも思ったが壊れやすそうだったし、臭気がやや強かったため、税関でのトラブルを恐れて断念した。
(つづく)
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