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2000年06月号 掲載

 
ペルー・アマゾニア紀行 3
関 洋人 (大洲市在住)
 その日は朝から満足な食事をとっていなかったので腹が減っていた。夕食には早い時間だが、フロントの気のいい青年がすすめてくれたレストランMalocaへ向かう。初めての街なので少し道に迷い、たまたま通りかかった小柄な若い男に店の名を言って場所を尋ねた。その男は“自分について来い”と言って、わざわざ店の中まで案内してくれた。このパブロという親切な男とは、その後、イキトスの街で何度も出合うことになった。



 薄暗く、ガランとして、だだっ広い店内に、客は一人もいない。まだ時間が早いせいだろう。雰囲気から想像すると、多分、ジャングルで他の街と隔絶されたイキトスでは最高級のレストランのように思えた。私とドクトルが中央の席につくと、すぐに、恰幅のよい店の主のような感じの男がメニューを持って注文を取りに来た。イキトスの街に来れば食べずにすませることのできぬパイチェ(ピラルクー)のセビチェ(マリネのようなもの。ペルーの名物料理の一つ)、魚入りヤキメシ、ヤシの芽のスープ等を注文する。
 料理ができるのを待っている間に、隣のテーブルに男が一人坐った。その男は席につくなり、携帯電話を取り出して、ずっと話し続けている。日本でもよくみかけるケータイ男である。
 前方のテレビでは、夕食を食べながら見るのにはどうかと思われる、例のエボラ出血熱の映画「アウトブレイク」をやっていた。  ほどなく供されたパイチェのセビチェは皿の中央に細切のパイチェの肉と玉ねぎの薄切を和えたものが盛られ、脇に茹でたサツマイモ、ユカイモ、トウモロコシが添えてある。この盛り付けは、この後に食べた何のセビチェでも基本的に同じだった。味は悪くないが、香草の香りが強い。多分多くの日本人はこの匂いに抵抗を覚えるに違いない。
 魚入りヤキメシの付き合わせには、プラタノ(加熱調理用バナナ)と目玉焼きがあり、目玉焼きの下にはパイチェのフリッタが隠れていた。空腹を割り引いても総じて旨かった。尾篭な話を付け加えると、流石にトイレも清潔で、トイレットペーパーも備え付けてあり、安心して用が足せたのである。当然、勘定は60soles(2,500円くらい)と高かった。
 ホテルに帰る途中、夜に飲むミネラルウォーターを売っている店を探した。ところが、炭酸入りのものばかりしか置いてなく、いわゆるノンガスのものが見つからない。あきらめかけたときに、先ほどレストランに案内してくれた男にまた出くわした。彼に尋ねると、また“自分についてこい”という。彼がたちどころに案内してくれた一軒の小さな雑貨屋兼食堂の店内奥深くに置かれた大きな営業用冷蔵庫の中には念願のAqua mineral sin gasが冷えていた。二本購入(1本3soles)。パブロは、この街のことなら、隅々まで知り尽くしている
(つづく)

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