1999年12月号 掲載
メキシコシティ 3
関 洋人 (大洲市在住)
チーコンコアックのレストランでの食事。
ほとんどセニョール・マンタと化したドクトルは満面に笑みを浮かべるのであった。
私たちは、メキシコシティからいったんメリダに飛び、オアハカを経て、五日後に、ふたたびメキシコ・シティに戻った。オアハカからの便は正午過ぎにメキシコ・シティ上空にさしかかった。最初、日本からメキシコ・シテイに着いたときは夜間だったから気付かなかったが、下界を眺めると茶色っぽくかすんでいる。世界最悪と言われるスモッグのせいだ。盆地で空気の流れが少ないところに来て、排ガス規制は無いにも等しい。まだ高い太陽が沈み行く夕陽のように赤く見えた。
オアハカから帰った日は水曜日。ドクトルはこの日、メキシコシティから車で一時間ほどのメキシコ州チーコンコアック村をたずねるのを楽しみにしていた。チーコンコアック村は小さい村だが、毎週水曜と土曜は衣料品と織物の市が立って賑わうので知られている。
ドクトルは、ときとして信じ難い行動に出て私を驚かせることがある。彼は今度の旅に出かける前に自宅用の毛布をすべてメキシコで揃えることを固く心に決め、すでに、オアハカでも二枚の毛布を買いこんでいた。
山肌にへばりつくスラムを過ぎ、竜舌蘭の畑が延々と続く単調な風景を眺めるうちに、だんだんと眠気が兆し、意識が夢路に入りかけた頃、チーコンコアックに着いた。
まず、村で唯一のレストランで腹ごしらえ。ステーキ、豚足、羊肉の包み煮などを注文した。メキシコに到着以来、ハズレ続きの食事が続き、全く期待しないで入ったこの店の食事の旨かったこと!
あらゆるガイドブックで絶賛され、地元の人にも強く推されたメリダの有名なレストラン「ロス・アルメンドロス」に裏切られ、これまた評判倒れだったオアハカ・ビーフに失望した私たちは何とも幸せな気分に浸った。
ところで、多くのメキシコ料理には、シラントロと呼ばれる香草が使われている。この香草はメキシコ人の体臭になっているというほど、メキシコ料理に不可欠の存在である。しかし、この独特の匂いは初めての人にはかなりの抵抗を感じさせる。ちょうど西欧人が我々日本人の体臭にタクアンや味噌汁の匂いをかぎとるようなものだろうか。
おいしい食事の後、ドクトルは待望のマンタ(毛布)漁り。何百メートルも続く衣料品や織物の店をひやかし、趣味の値切りを楽しみつつ、この旅行で三枚目のマンタを購入した。
彼の手荷物はマンタで膨れ上がり、まるでセニョール・マンタと化していた。
(つづく)
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