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2000年10月号 掲載

 
ペルー・アマゾニア紀行 7
関 洋人 (大洲市在住)

アマゾン支流Rio naneyの流れ
 一見、強持てのしたモトカーロのおっちゃんはきわめて好人物で親切だった。まず、我々をRio naneyに面した港へ連れて行った。港の周囲には小規模ながら、市場と露店や食いものの屋台がある。しばらくの間、港の風景を眺めたり、露店をひやかしたりする。モトカーロのおっちゃんは、「次は、どこへ行こうか?」と我々に訊く。我々にはもちろん行くあてなどない。ただモトカーロに乗って風を切って走っていればなんとなく気持ちがよいというほどのことだったのだから。
 われわれが、はっきりした返事をしないでいると、おっちゃんは「じゃあ、今度はキストコチャ(Quisto-cocha)にでも行ってみるか?」と言う。キストコチャとはイキトスの郊外にある動物園である。イキトスの観光スポットは、まず、ベレン地区の市場、次にこの港の周辺、あとはキストコチャというところらしい。おっちゃんは、平気で後ろを振り向いてわれわれに話しかけながら、モトカーロをぶっ飛ばしていく。「家族は何人いるのか」だとか、他愛もない話をしているうちに十五分ほどでキストコチャに着いた。
 道路ぞいに並ぶ、mas educacion(もっと教育を!)、cuidado para cida(エイズに気をつけよう!)といった具合の大統領府のスローガンを書いた大きな看板を横目に園内に入る。
 キストコチャの動物園は日本のそれとはやや様相を異にするる簡単に言うと、動物は一応、檻の中に入ってはいるが、およそ人間と動物を隔てる柵というものがない。したがって動物に触りたければ、簡単にいくらでも触れることができる。もっとも気をつけないとガブリとやられるのは断わるまでもない。
 動物園の中に入るとすぐに、われわれに付きまとって案内役を買って出た少年は、体長が1.5メートルもある巨大なパイチェ(ピラルクー)の背中をぺシャ、ペシャと音をたてながら叩いたりさすったりしている。モトカーロのおっちゃんも負けてはいない。ジャガーの檻の中に手を突っ込んで、眠っているジャガーの子供の手を握り、握手のまねごとをしてうれしそうに笑っている。
 園内には、各種のヤシをはじめ、プレアヤカと呼ばれるライチーのような実をつける木や、ワクラポルナという根に棘をもつ植物など、さまざまな熱帯の樹木が繁っている。そこかしこを走り回っている猿は、放し飼いにしているのか、あるいは野生のものが動物園に入り込んできたのか判然としない。
 園内にある湖では水浴をしている人もいれば、魚釣りをしている子供たちもいる。湖の先にあった小さな熱帯魚水族館ではまた驚いた。ただ、水を入れた水槽に酸素の補給もなしに熱帯魚を放り込んでいるだけなのである。すべてに、おおらかといえば、おおらかな放埓といえば放埓な動物園だった。


ドクトルとおっちゃん
サングラスをとるとやさしい顔だった。
 甲羅干しをしている亀を凝視しているドクトルが、おっちゃんに「亀を食わせてくれるところを知らないか?」とたずねる。 すると、おっちゃんは「亀が食いたいって? 亀には陸亀と川亀があるが、陸亀は肉が固いから、川亀の方がうまい。じゃあ、川亀を食いに行くか?」と言う。これで昼食は決まった。
 われわれは、帰りがけに、動物園の出入口に立っていた老人に園の外に建つ展望台の建物に案内された。建物の中にはめずらしい動物の剥製がいっぱい陳列してあった。老人はそれらの一つ一つを細かく丁寧に説明してくれた後に、「実はこの施設も経済的になかなか大変だ……」と言ってわれわれに寄付を求めてきた。剥製は、なかなか興味深いものでもあったし、やむなく、5Solを手渡し、亀食堂めざして出発。
(つづく)

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