2000年03月号 掲載
メキシコシティ 6
関 洋人 (大洲市在住)
火吹き男
私たちはコヨアカンを後にして、学生数約三十万人を抱え大学都市と呼ばれるメキシコ国立自治大学や、ランチャ(花舟)というけばけばしい色に塗り立てられたたくさんの小舟が汚れた水路に浮かんでいるだけの有名な行楽地ソチミルコを訪ね、市の中心のレフォルマ通りに戻った。行き交う車の後方の窓ガラスには、全く同じ大きさで色の異なるステッカーが貼ってある。貼られたステッカーの色に応じ、その車は決められた曜日には市内への乗り入れが禁止される。もちろん世界最悪の大気汚染対策の一環だ。
メキシコシティは、他のラテンアメリカの都市同様に、小銭を稼ぐ路上パフォーマンスが盛んである。そのパフォーマンスの中で最も過激なものが“ガソリン火吹き男”。もちろん口に含んだガソリンを霧状にして吹き出し、それに火をつけて炎を吐くことを業とする男たちだ。当時、メキシコシティにいた“ガソリン火吹き男”は総勢約五百人と言われていた。もちろん、国の経済状態が悪くて職につけないため、食べるために否応無しに行うパフォーマンスである。こんな危険なことを好きでやるものはいない。
メキシコ国立自治大学
次の日、われわれは日本航空機でメキシコシティから日本に帰った。持ち帰った土産の中で好評だったのは、チーコンコアックで買ったポンチョだったが、何回か着用したのちに妻がクリーニングに出したのが運の尽き。クリーニング屋から戻ってきたポンチョは見事に幼児用の大きさに縮んでしまった。
しかし、幸いなことに十年後の現在になって、そのポンチョは我家の幼稚園児の冬用寝具として重宝している。
(つづく)
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