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1997年04月号 掲載

 
サンタクルス あぶない話6 
関 洋人 (大洲市在住)

メルカド・ポソにあるコメドール(大衆食堂)の女主人。
 いくら物質的に豊かな日本でも、普通の市民にはまず入手不可能だが、ボリビアでなら、どこででも簡単に入手できるものがある。もちろんコカだ。
 あの有名なコカインの材料のコカであるが、コカの葉そのものは、もちろん麻薬でもなんでもない。はるかな昔から、アンデス地方にある伝統的な嗜好品に過ぎないのである。コカの葉っぱをそのまま口に入れてしゃぶったり、湯の中に入れて丁度日本茶のようにして飲んだりするのだが、空腹を紛らわせたり、高山病の頭痛によく効くとも言われている。私も毎日、三、四杯ずつは飲んだが、葉緑素の味を感じるだけで心身に対しては何の影響も感じられなかった。
 ボリビアでは、一九九四年に、それまでは全く自由だったコカの栽培が法律で制限された。国内のコカイン対策に悩まされたアメリカがコカの栽培を禁止する方向にもっていかないと経済援助を停止するという政治的圧力をかけたためだ。しかし、いまだにティーバッグに加工してあるコカ茶はどこのスーパーでも売られているし、片田舎の青空メルカドではコカが山積みされていた。一流ホテルのロビーにさえ大きなポットとコカのティーバッグが一緒に置いてあった。一種のサービスなのである。


コカの葉とコカ茶。スギナ茶?
 われわれは、日本に帰国したとき、スーパーで買ったコカ茶のティーバッグを持っていた。どこから見ても善良な市民である私の手荷物検査はフリーパスだったが、口ひげを生やし、どことなく胡散臭い友人のドクトルは「二週間の旅行にしては荷物が多いね。調べさせてもらうよ」と言われた。優秀な日本の税関職員がコカ茶を見逃すわけがない。係官四、五人が集まり激論三十分。結局、一番のベテランと見受けられる係官の「これぐらいではコカインは作れんだろう」の一言で無事、無罪放免とあいなった。ああ、あぶなかったが、助かった。
 二週間後、私は法事に出席し、その席で、土産話とともにコカ茶を出席者全員に振る舞った。茶にうるさいあるお年寄りが言った。「これは、スギナ茶じゃろう」。
(了)

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