1997年12月号 掲載
ラパス
関 洋人 (大洲市在住)
メルカド・ネグロには急な坂に沿ってありとあらゆる種類の店が軒を並べている。さらに、店の前の歩道上にもびっしりと露店が連なり、買物客でごったがえす、あたり一帯に南米のメルカド特有の臭いが充満している。商売しているのはほとんどが女性で、しかも主役はチョリータである。この通りでOSHINというチョリータ向けの衣料品店(写真)を見つけた。ここボリビアでも「おしん」は圧倒的な人気で、当時三回目の放送中。また、ここラパス周辺ではどこにでも売っているが、他ではあまり見かけないものが道路わきに積んである。『チューニョ』と呼ばれる乾燥ジャガイモがそれ。ジャガイモを低温で乾燥させたもので、三十年はもつというインカ伝統の保存食だ。レストランで〟ボリビア料理〟を食べるとたいていは何にでも付け合わせたみたいにして出てくる。何度となく食べたが、味、歯ざわりともに、ジャガイモというよりは〟クワイ〟に近い。
そして、『チューニョ』といえば思い出すことがある。それから何日かたったある日のこと、T夫妻の知人宅で、とあるJICAの上級職員と食事をともにすることとなった。その席で、たまたまチューニョが話題に上ったときのことである。その上級職員氏が「えっチューニョ?それなんですか?」という問いを発して話を遮った。話しぶりからすれば、ボリビアに何年か滞在していることは間違いない彼の口から発せられたれたこの問いは、その場にいた同席者達にとって、実に驚くべきものであった。チューニョは何かとボリビアで聞くのは、日本で長く暮らして味噌汁?それ何ですか?というのとかわらない。
話が進む中で、このJICAの上級職員か゛ボリビアの庶民の暮らしとは、ほとんど無関係な世界に閉じこもっていることがわかった。それから二時間の間、われわれは彼の無知と横柄な物腰に不愉快で腹立たしい思いをしながら、退屈極まりない時間を過ごすことになったのである。
一体、途上国の援助に来て、庶民の暮らしぶりを知らずに何が出来るのだろうか。この他にもラパスでは、JICAの中上級職員の特権階級的暮らしぶりを見聞きしたことが一度ならずあった。私たちは、途上国の援助やJICAのあり方について強い疑念を抱くに到ったのである。
(つづく)
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