1999年03月号 掲載
ペレン(ブラジル)
関 洋人 (大洲市在住)
われわれの移動スタイル。
椅子のひとつはこわれ、ひとつは盗まれた。
帰国の日を前にして、以前から是非ほしかったピラルクーの塩漬け肉を捜しに街へ出た。
ピラルクーは、同じアマゾン水系に棲む鯰の一種ピライーバに次ぐ世界でナンバー2の大きさを誇る淡水魚である。
空気呼吸が必要な古代魚で、ピラルクーを銛で狙う漁師は水面に浮き上がって来る頃合いを見計らって銛を打ち込むという。
“アマゾンの鱈”とも呼ばれ、肉が非常に美味とされるため、乱獲が続いて個体数が減っている。それに拍車を掛けるようで、罪深いことではあるが、滅多に食べられないものはやっぱり食べてみたいのである。
食料品店を何軒も探し回って、やっと何重にも折りたたんで紐で括ったピラルクーの塩漬け肉を見つけた。一キログラム五百円。塩漬けなので、三十分ほど水に浸けて塩抜きをしてから調理するとのこと。私は一キロ、ドクトルは友人に頼まれているとかで二キロほど買った。
明日の朝五時にはリオに向けてベレンを発つ。そう思うとビラルクーを抱えて屋台に立ち寄り、ついつい例のタカカーを食べてしまった。さらに、ホテルの近くのバールに寄ってカニ爪の揚物を食らう。このバールには、裸足の子供たちが、たぶん親に頼まれてであろう、ビールやコーラを買いに来る。ほとんどの子供が中身をビニール袋に移して持ち帰っている。僅かの瓶代を節約するためである。
明朝に備え、ホテルに帰って八時半に就寝。翌日、予定通りリオに着き、その翌々日の便で帰国の途についた。リオを出発して、約二十五時間後に成田に到着。(予定より三十分も早い!)
ピラルクーの塩漬け肉などは、通関時にみつかれば、即没収間違いなしなのだが、幸いわれわれの紳士的な物腰は税関職員に何の疑念をも抱かせなかったようだ。
街の肉屋
帰宅後、私は妻に教えられた通りの塩抜きを頼み、(三十分の塩抜きではとても食べられぬほどの塩辛さで、結局半日近くかかった)ムニエルにして食べた。味はなんといったらいいだろう。棒鱈を水でふやかしてバサバサにし、旨味を抜き取ったような感じだった。期待を大きく裏切る味だったのである。
私は日を置かず、あまった肉を何人かの知人にもったいぶった講釈を垂れながら分け与えた。
帰国後、一週間くらいしてドクトルから電話があった。当時ドクトルの妻は出産で入院中。ドクトルが毎日台所に立って小学校二年の息子と自分の食事を作っていた。おかずの一品には、毎日必ずピラルクーが並んだ。ドクトル曰く「ウチの子供はおかずの文句ばっかり言って困る。毎日、俺の顔を見るといやな顔をしてこう言うんだ。お父さん、今日もまたピラルクー」。
(つづく)
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