1999年08月号 掲載
ロザリオ(ブラジルマラニョン州)
関 洋人 (大洲市在住)
フェスタのあった日の翌朝、目を覚ますと、家の中の床といわず台所といわず、あたり一面、羽蟻のような虫の死骸で覆われていた。
友人の牧場の近くには、他に人家がほとんどないから、彼の家の灯りに虫が集まって来るのは理の当然。 あとで、気付いたことだが、その翌日にはコオロギが雪のように積もっているという風に、日によって全く異なった虫が集まってくる。
この家にはエンプレガーダ(お手伝い)が二人いるが、家が広いから毎日の虫の始末だけでも大変だ。見ていると、彼女たちは、シャワー室、トイレの清掃、手洗いでの大量の洗濯、食事の準備とけっこう忙しい。それで、給料は一日一ドルだが、食事に関しては、ここで自分の家族の分も作って持ち帰ってよいことになっているという。
異国暮らしが長くなっても最後まで馴染みにくいのが味覚らしい。私の友人は、ある時、彼女たちに日本風のコロッケの作り方を教えたことがあった。しかし、出来栄えは今一つパッとしなかったようだ。また、ある日のこと、彼は、休日で彼女たちが不在の台所に立ち、私が日本から送った「ジャワカレー」を作ったことがあった。彼は自分であたう限り日本風に作ったカレーをしみじみと食べた。そして、残ったカレーを次の日の楽しみに取り置いた。が、翌日、彼が台所に行ってみると大切なカレーが見当らない。エンプレガーダが鍋の中に怪しく臭うカレーを見つけ、腐っているものと思って、迷わず捨ててしまったのであった。
さて、この日も朝食は、例によってマンゴーである。このあたりはマンゴーがどこにでも自生していて、誰でも、タダでいくらでも食べられる。友人はマンゴーを食べながら、マンゴーさえ食べていれば一応生きていけるから、ここマラニョンの人間は極めてのんびりしていて、リオやサンパウロの人間の半分も働かないのだと言う。何とも羨ましい。
彼の友人であるセラミック工場の工場長エレネウは、マラニョンの隣のピアウイ州テレジナ出身であるが、そのエレネウもまた、あきらめと、苛立ちが入り混じった表情で、決して働き者とはいえないピアウイの人間に比べてもマラニョンの人たちは段違いにのんびりしていると太鼓判をおしていた。
街を散歩する豚。確実な利殖のシンボル
朝食後は旅の日課のメルカド(市場)巡り。街を歩くと、路上を豚や鶏が走り回っている。友人の話によれば、ブラジルのこの年のインフレ率は年三千%。つまり一年で物価は三十倍。だから銀行に預金しても目減りは避けられない。当地で一番確実な利殖法は家畜を飼うか、車を買うかのどちらかだという。日本では、何年か乗ると、車はタダ同然となるが、ブラジルでは年が経っても中古車の価値がほとんど落ちないのだそうだ。そして、家畜だとうまく飼えばどんどん増えるからなおさら有利だという。
しかし、こんなに街中をうろうろしている豚や鶏は盗まれないのであろうか?
われわれがピックアップトラックに取り付けた椅子はあっという間に盗まれてしまったというのに‥‥。
(つづく)
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