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1999年06月号 掲載

 
ロザリオ(ブラジルマラニョン州) 
関 洋人 (大洲市在住)

青空市の老婆


 友人の家には、ハンモックを吊るしたテラスがある。そのテラスは、二、三十人のフェスタ(パーティー)位は充分出来る広さがあって、前の庭にはシュハスコ(ブラジル風バーべキュー)用の施設も備えてある。
 友人の仕事部屋で休むともなく、とりとめのない話しをしていたら、彼が、ふっと立ち上がり、部屋の端の巨大な冷蔵庫のところに行ってドアを開いた。中を見ろと手招きするので、私も冷蔵庫の前に行き、中を覗いた。大量の牛肉が詰め込んである。約五十キロはあるだろうか。明日、彼の友人たちが二十名ほど集まって、われわれの歓迎パーティーを開くためのものだと友人が言った。
 ぼんやり外を見ていると、また雨が降ってきた。なぜか雨が降るとすぐに停電する。そして、その停電は半日くらい続くこともめずらしくないのである。
 少し、長旅の疲れが出たようだ。友人の部屋を出て、水のシャワー(湯は出ない)を浴びてすぐにベッドに潜り込んだ。
 翌朝は五時に目が覚めた。また雨だ。朝食に、マンゴーとジャツカというドリアンのような果物を食べた後、八時過ぎに、夕方のフェスタの買物に出かける友人について、ロザリオの街のフェイラ(青空市)に出かけた。
 友人は、冷蔵庫の肉だけでは不安なのか現地ではクリマタという名で呼ばれる七十センチ位の大きな淡水魚を一匹買った。三百五十円也。(帰国後、ある熱帯魚店でこのクリマタの五センチほどのやつを一匹数千円で売っていた)
 他に売っている魚はピラーニャ、ナマズ、淡水イワシに、エビと泥ガニ。露店の魚たちは、雨にうたれ、蝿がむらがっているが誰も気にとめるものはいない。傘をさした老婆が二人、厳しい眼差しでゆっくりと泥ガニを値ぶみしていた。昼前にファゼンダ(農場)に帰り、中の池で釣りをして夕方を待つ。大きな魚はファゼンダのピヨンたちがおかず用に獲り尽くし、あたりはほとんどない。たまにかかるのはせいぜい五、六センチの川スズメだとか、淡水イワシばかりだった。
(つづく)

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