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2006年12月号 掲載
第 94 回 「朝のうどん」再訪
 
やまこうどん 愛媛県宇和島市錦町
営業時間/午前5:00~売り切れまで

- 一玉入り 300円 -


- 大盛二玉入り 400円 -
 先日、久しぶりに、宇和島の「やまこうどん」に行った。椅子席が2組、台所とのしきりにカウンターの席がある店内の雰囲気はまったく変らない。今年亡くなった作家吉村昭の「朝のうどん」という小さい額も、同じ場所にかかっていた。吉村は宇和島に来ると、ある時は奥さんの津村節子とある時は編集者の人と一緒に必ずこの店のうどんを食べに来たという。吉村はこの店のうどんのことを随筆にも書き、文芸春秋の宇和島案内記事に写真入りで紹介したこともあった。いずれも吉村のこの店に対する愛着を快く感じる読み物だった。
 台所では、かつお節と昆布の出汁がおいしそうな匂いを放っている。右手の揚げ鍋の側には小海老のかき揚げが山盛りになっている。この店のうどんは、このかき揚げに宇和島名産の天ぷら、かまぼこがのっかっている1種類だけ。5時ほんのすこし前に特注の麺が届く。細打ちで、1玉の分量が少し多めになっている。開店と同時に、魚の仕入れに来た人や、新聞屋さん、タクシーの運転手、飲み屋のママさん、早朝ジョギングの人などの、常連客で店は溢れる。うどんの湯気と、客たちが交わす言葉が店内を温かい気分にする。客の何人かは台所に入り、自分でうどんを茹でたり、汁をかけたりと甲斐甲斐しく動き回る。かき揚げを揚げる若者までいる。店の人が1人で忙しいのを見かねて、常連客が始めた、勝手知ったるの流儀である。


- 看板ものれんもない民家のような店 -
 今日は「1玉」と確かめられたから、つい「2玉」と答えた。「はい、いっぱいよ」といって出してもらった大盛りのうどんをすする。出汁は、昆布とかつお節の効いた淡白な味。小海老のかき揚げやてんぷら、かまぼこも宇和島の名に恥じぬおいしいさだ。大盛りでも400円。開店してもう50年を優に越えている。
   
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