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1998年06月号 掲載
第 17 回 八幡浜のふぐ
北浜大島屋 
 
TEL0894-24-0051 

水槽のとらふぐ約1.7キロ。
地下から海水を汲み上げている。
 北浜大島屋が、いつも変らぬ値段で、とびっきりの、天然の、生きたとらふぐを調理して食べさせてくれる店であることは、八幡浜の人なら誰でも知っている。
 ご主人の臼井正勝さんが店を開いて十三年。ふぐの調理は、県のふぐ調理師試験の試験官まで務めたお母さんや、同じ大島屋の屋号で千代田町にふぐ料理の店を開いているすぐ上のお兄さんに手ほどきを受けた。臼井さんが子供の頃は、まだ八幡浜にはふぐを食べる人が多くなかったので、臼井さんの家では、売れ残ったとらふぐが毎日のおかずや味噌汁の出汁になっていたそうだ。

ふぐひれ酒
 臼井さんは、店を開く時、入口にふぐ刺しとから揚げ、ちり鍋、雑炊のコースで一人四千円(十三年前の値段)とはっきり書いて貼り出した。子供のころから、毎日食べていたふぐを、誰にでも、安心して食べてもらいたかったからだ。  ふぐもぴんきり、ふぐの王様ともいうべきとらふぐにさえ、値段の幅が十段階ある。臼井さんの店で出すふぐは、その中でも最高のとらふぐだが、ほどよく酔って、ふぐをしっかり味わって一万円札一枚でことたりる。臼井さんは、魚市場の仲買だから、材料の仕入れは万全だ。ふぐの値段が変動しても、たくさんのお客さんに来てもらって、同じ値段で食べてもらおうというのが臼井さんの流儀なのである。

臼井正勝さんと奥さんの京さん。
真ん中は松本千鶴さん。
北浜大島屋/TEL0894-24-0051
ふぐを食べて、軽く飲んで約1万円。夏は、ふぐに限らず、 店主が近海で釣った鯵やいさきで気軽に1杯楽しむこともできる。年中無休。
 ふぐは、産卵後の五月、六月に身が弱るというが、ほんとうは、しっかり吟味さえすれば一年中、味の変らない魚だという。「僕は、いつでも、そのときの一番いいふぐを自分で仕入れて、一番いい状態で出しとるだけよ。おいしいものを、そのまま、おいしいままに食べてもろうとるだけ。料理とはいえんかもしれんな」と臼井さんは笑う。この地方特産の「かぶす」のポン酢に紅葉おろしと肝をとかして薄造りを食べる。心地よい歯ごたえと淡白な味わい、ほんとうに素材の力がそのまま生きている。いったい、これ以上の料理というものがあるのだろうか。

ふぐ刺し

から揚げ

ちり鍋

雑 炊
ポン酢のかぶすは、苦みをとるために薄く皮をむいてから絞る。 シーズンには店がはねてからのポン酢作りが午前2時3時まで続くそうだ。

 
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