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1999年10月号 掲載
第 32 回 繰り返しに耐える店 
横田ストアー 
松山市拓川町 
TEL089-947-3102 営業時間/午前6:30―午後8:30 

繰り返しに耐えるメニューと家庭的な味付けの惣菜
 松山のあるデザイン事務所で打ち合わせをしているうちに、昼時になった。事務所の中ほどの衝立ての向うでこもるように仕事をしていた若い女性の社員が、「あの、ちょっと行ってきます」といって数人の社員から、お金を受け取って、外に出ていった。 「あーもう昼か」と思いつつ、話しを続けていると、二十分もたってちょうど打ち合わせが終わろうとする頃に、さっきの女性社員が白いビニールの袋を大事そうに抱えて帰ってきた。「お昼」と聴くと「そうなんですよ」という。


 彼女によれば、毎日、当番を決めて石手川の拓川公園の近くにある「横田ストアー」というお惣菜、野菜から肉、鮮魚、雑貨、なんでもそろう店に買い出しに行っているとのことだった。その店のお惣菜は、安くて味付けがどことなく家庭的、素人風で食べやすいだけでなく、メニューも豊富。とんかつや唐揚げからサラダ、おひたしや煮物、和えもの、焼魚までなんでもあるという。ごはんは、四種類のサイズがあって、女性には都合がよいし、ちらしずしやいなり寿司、鯛めしや、やきそば、おでんもなかなかおいしいのだそうだ。事務所の人たちは、最初は、てんでに、近くの食堂などに通ったりもしていたらしいが、結局、安くておいしくて飽きがこない、「横田ストアー」への買い出しが毎日の日課になったそうである。

レジで。右が横田さん
 入口の看板に精肉・鮮魚「横田食鳥」惣菜・野菜と書いてある。中に入ると袋菓子から缶詰類、調味料などの食品や大体の生活雑貨まで置いてある。惣菜やごはんものは入口のレジの後ろから奥の鮮魚コーナーのあたりに並んでいた。私は、お芋の煮たのや白菜と豆腐の煮もの、焼鳥と唐揚げ、鯛めしを選んだ。
 レジで勘定をすませながら、店を切り盛りしている横田さんに少しだけお話しを伺った。店を開いて三十五年くらい、スーパーにして十二年ほどになる。毎朝、五時前にお惣菜の調理をはじめる。六時半に店を開けると、すぐお弁当のおかずを買いに来た主婦や勤め人で行列ができるそうだ。お昼は近所の会社に勤める人たちが列をつくり、夕方は五時過ぎから晩ご飯の買物に来た主婦や勤め帰りのOLなどで混雑するという。「うちは、家庭的なものしかつくれんからね」とあっさりという横田さんであるが、いつもかわらぬ家庭の味が手軽にもとめられるのは有難い。
 野菜にしても、横田ストアーは一個売りをしてくれるから、独り暮らしの人にとってはすこぶる経済的だ。くだんの女子社員は、さほど大きくもないカボチャ一個を前に迷っていたら横田さんが「かまんよ、半分に切ったげよ」といってくれたのがうれしかったと話していた。
 横田ストアーは、おかずも、魚も肉も野菜も、当たり前のものが当たり前に売られている店であると思う。だから毎日の繰り返しに耐え、飽きることがない。今の世にこれは素晴らしいことだと私は思うのである。

鮮魚もある。野菜は1個でも売ってくれる。

 
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