1998年10月号 掲載
第 21 回 栗入り志ぐれ餅
二葉屋
大洲市志保町
TEL0893-23-4475
栗入り志ぐれ餅を作る洋己さん。
冷たい煎茶と栗入り志ぐれ餅
栗入りしぐれ餅840円、普通の志ぐれ餅は 大12切れ入り997円、
小8切れ入り735円 (すべて税込みの価格1998年9月末日現在)
出来上がった志ぐれ餅は竹の皮で包む。四代目の斗志英さん。
鵜飼いが終わり、芋炊きが始まるとそろそろ大洲に秋の色が深まってくる。そして、九月も半ばを過ぎ栗が落ち始めたなと思うまもなく大洲市志保町の二葉屋で、栗の季節にしかつくらない「栗入り志ぐれ餅」が売り始められる。
大洲の銘菓として名高い志ぐれは、約二百年ほど昔の江戸時代に、大洲藩江戸家中で考案されたものが今日に伝えられたものだ。大洲の町を歩くと、志ぐれの看板を掲げた菓子屋に出会うのが一度や二度ではない。
私は子供の頃、今は日常的に食しているこの志ぐれが大嫌いだった。たしか、父親が誰かからもらってきたのであったと思うが、はじめて口にしたときには、べっとりと、しつこい甘さがからみついてきて、この菓子は二度と食べたくないなと子供心に思ったことをよくおぼえている。ところが数年ほど前のこと、ひょんなことで、臥龍山荘へと続く細い道の入り口にある二葉屋に寄り、出来立てのしぐれ餅を口にしてから、ずっと敬遠していたしぐれ餅をおいしいと思うようになった。幼い頃の味覚や記憶ほどいいかげんなものはないというべきなのだろうか。とにかく淡白な甘味がほどよく、同じ菓子とは信じられないほどにも思われたのである。二葉屋では三代目の長穂洋己さんと四代目斗志英さんの親子が昔ながらの味を守っている。毎日、その日の分だけ、もち米と米を搗き、小豆と砂糖とあわせてせいろで蒸し上げる。仕事の始まりは、普段は朝の四時から、栗入りの季節は三時から。開店の九時前には店に出来たばかりの志ぐれ餅が並ぶ。二葉屋のものは、保存薬無添加だから、日持ちはしないが窒素充填の包装をしてもらうと五日くらいはおいしく食べられる。
つけくわえると、二葉屋は志ぐれ餅もおいしいのだが、大洲でも屈指の美しい町並みが連なる志保町、柚木の臍のような場所にある。大洲の町歩きを楽しんだ後に、お抹茶や煎茶を飲みながら、足を休めるのにこれほどぴったりの場所はまたとないのである。
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