ある時、友人が、松山郊外に貝料理の専門店があるのを知っているかと言った。もちろん知らなかった。店の人が親切な上に、なにより味がよいのだと勧めてくれたので、早速、出かけてみた。
　場所は国道十一号線のフジ重信店の手前、左手。友愛病院の裏側で、すぐにわかった。土曜日の午前十一時、まだ店が開いたばかりで、のれんを潜って店内に入ったが誰もいない。友人が言った通り、店の中に三メートルほどの青い船型の水槽があって中に生きた貝がいっぱい入っている。奥に向かって声をかけたら、「どうぞ」という声が返ってきた。
　メニューがいろいろあって、迷ったので、店の人に相談して、貝焼コースを注文してみた。はまぐり、巨大なあさり、ヒオウギガイ、石川県の特産万寿貝、アオニシ貝、エゾツブ貝、などを一個ずつ丁寧に焼いて食べさせてくれた。貝の焼け具合に従って、鉄板の上に貝を置く向きを変えるなどのちょっとした手間で、貝が、ほどよく焼け、また、食べる時に、貝の身や貝柱が、貝殻から離れやすくなる。味はどうか。無論おいしかった。食べているうちに海の匂いが口中にあふれ、みずみずしく、ぷりぷりした貝の食感に引き込まれた。苦味と甘味が微妙にまざりあったヒモの部分の複雑な味わいも新鮮な貝ならではのものだった。貝の扱いに慣れた人は、自分で焼いた方がよいに違いない。私は初めてなので、貝が育った場所や、焼き方、食べ方まで一々教わった。貝は当然のことながら、すべて生きていて、日本中からいいものを選んで集めている。貝それぞれに生かしておく条件がことなるため、水槽も大きさや水温別に何種類か用意しているという。貝を使ったグラタンやピザ、スパゲッティー、カレーなどもあるから家族連れにもよい。今の季節は岩ガキも楽しめる。