1997年10月号 掲載
第 9 回 松山市「天くに」の天ぷらと芋炊き
天くに
松山市藤原町テレビ愛媛の近く。
国道五六号線沿いで、松山市内に向い右側。
天ぷら定食
入り口の引き戸を開けると、左手の厨房を取り囲んでカウンターの席があり、土間をはさんだ右側が座敷になっている。一つだけ空いていたカウンターの角の席に座り、迷わず「天ぷら定食」を注文した。友人に教えられていたからである。店内は、昼時だけに近くのサラリーマンで混み合っている。サバの塩焼きが焼ける匂いや煙、天ぷらの揚がるジャーという油の音、立ち昇る味噌汁や番茶の湯気などが渾然となって、私の空き腹に働きかけてくる。壁に掛けられた黒板に白墨で書かれた献立を見ると、サヨリの天ぷら、冷奴、サバの塩焼き、など五、六種の昼のオカズがある。
ご主人の菅敬泰(すがよしやす)さんと(左)奥さんの映子さん。
ご主人は八幡浜市真穴、
奥さんは松山市のご出身。ご主人は釣がご趣味で、休日は石ダイとメバルを求めて佐田岬へ出かける。
手持ちぶさたに、先客の卓上を眺めた。どれもおいしそうだなあと、思う間もなく揚げたての天ぷらがカウンターに並べられた。サヨリ、茄子、海老、紫蘇の葉、シシトウ。十数年通い続けているという友人の言葉にうそはなかった。美味しいのである。油が軽くて、カラッとして、およそシツコさというものを感じない。ネタも新鮮で、とりわけ海のモノの新しさは特筆ものだ。そして、味噌汁が又うまい。夜はお酒も飲めるということを知り、くだんの友人と出かけてみた。夜は酒の肴の種類が増える。薄味で煮込んだ芋炊きが絶品だった。ゆっくり、静かに懐具合を心配せずにお酒と美味しい料理が楽しめる店である。
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