過去の連載記事
同じ年の連載記事
2001年11月号 掲載
第 49 回 北条でうまいもの 
うを勝 
 
TEL089-993-0070 

上ネタを巻いた特製太巻4,000円
2人か3人で食べるとよい

大トロはインドまぐろ
おいしいが懐具合とよくよく相談のこと。

昼の「穂高」のにぎり寿司1,500円
おすすめです。

焼アナゴのにぎり寿司
 北条の友人のお義兄さんが言った。
「北条でなぁ、まあ、松山へんからわざわざ食べに行ってみようかいうのが、三つある。一つは勧商場の焼きそば、それと駅のそばの「千鳥」の鳥の足、最後が「うを勝」の寿司。まあ、これらはうまかりよったんよ」。「うまかりよったんよ」と過去形で言われるから問い返した。すると、どれもなくなってしまったわけではなかった。
 最初に出てきた焼きそばの「勧商場」は「花へんろ」の脚本作家で小説家の早坂暁の生家があった場所である。親戚が昔の屋号をそのまま引き継いでいるが現在は工事中という。二番目の千鳥は噛み応えのある廃鶏の腿を上手く焼いて食べさせる店。ただ、鳥焼きの名人のおじいさんが亡くなってから気のせいか味が変わったという。それでも、みんな七十歳を越えているという店のおばさん達との会話も楽しいし、決して悪くはないそうだ。最後の「うを勝」はちょっと懐が痛むが、ネタが格別で、お値打ちの店だという。友人は、食べ方によっては、勘定を見て顔が引きつることもあると付け足し、お義兄さんは「松山から、きれいどころを連れてお忍びで寿司をつまみに来る人もおるんよ」などとけしからぬことも教えてくれた。
 結局、私はたまにはいいかと覚悟を決めて「うを勝」に出かけたのである。のれんをくぐってカウンターの席に腰を下ろして見上げると、どっしりとした体格のご主人が大きな手を器用に動かしてエビをさばいていた。昼のサービスメニューから特上にぎり、赤だし付きを注文。たしかにネタはすばらしいが、余りに巨大で食べづらい。ご飯は小さく、いわゆる花魁寿司。ネタを頬張るようにして、やっとの思いでたいらげた。評判のアナゴをお好みで頼む。焼きアナゴと蒸しを一つずつ。焼アナゴの方が気のせいか、おいしかった。
 その日はそれでおしまい。勘定は五千円を越えていたが、出されたものの質と量からすれば決して高いとは言えない。私は次の日曜日の昼に、友人を誘ってもう一度出かけてみた。こんどは一番安い「穂高」のにぎり寿司を一人前と焼アナゴのにぎりを一貫。「穂高」のにぎりは、やはり大振りではあったが、ごはんもいいバランスで、ネタも悪くない。
 結論を言うと、茶碗蒸しも、なにもかもこの店のものはみな堂々としてでかく、味も鮮度もよい。実質があるのである。箸袋の布袋さんと瓜二つのご主人の仕事ぶりは確かで揺るぎがない。だから、いつでも、体調と懐具合にあわせて出かけるとよいと思う。
 
Copyright (C) T.N. All Rights Reserved.
1997-2012