2005年06月号 掲載
第 77 回 あまてがれい
海食浜勝
今治市大浜
TEL:0898-32-6105
酒蒸し
今年三月二十二日に亡くなった建築家丹下健三の設計になる今治市役所と公会堂(表紙写真)を見た後、久しぶりに大浜にまわり、「浜勝」のカウンターに腰を下ろした。顔を見せた山本毅(つよき)さんに「なにがいい」と聞くと、「あまてがれい」の一言。真子鰈(まこがれい)のことであるが、瀬戸内地方や鹿児島では「あまてがれい」と呼ばれている。
最初は、ふぐの刺身のような薄造り。ぷりぷりしているが、適度な柔らかさがある。品のよい、淡泊な味ゆえに、かえって、活きのよい魚の豊かな旨味が後を引く。さっと茹でた肝が添えてあったが、こちらの方は、口の中でとろけていくような食感だ。濃厚な味わいでありながら少しの生臭さもしつこさもない。後口のよいこと無類である。フォアグラのソテーなどとは比較を絶すると言いたいおいしさだった。
刺身を食べ終わる頃に、酒蒸しにした片身が出された。すぐに口に運ぶ。純白の身の素晴らしさをなんといったらよいものか。塩をふり、少しの間置いたかれいを、広げた昆布の上に載せてほどよく蒸しあげただけのものだが、旬の魚の新鮮さ、味わいの豊かさや彩りが、見事にとらえられていて、うれしくなった。
厨房から出てきた山本さんに「この魚、どこでとれたの」と聞くと、目の前の海を指さして「そこよ」と言う。毎年、五月から六月中頃の、この季節に決まった一人の漁師さんが、来島海峡のあまてがれいを、水揚げしてくれるそうだ。どのカレイも活きがよく、魚体が傷んでいないので、「いったい、この人はどうやって魚をとっているんやろう」と不思議に思うと言った。
真子鰈というと大分日出の「城下かれい」がとりわけ、天下に名高い。しかし、来島海峡の「浜勝」で食する「あまてがれい」は絶対に負けていないと思う。
山本毅(つよき)さん
薄造り
フォアグラに負けない
あまてがれいの刺身
「あまて」の名は、カレイの中では身が厚く、魚の形が病んでふくれた手の形に似ているからとも言うがはつきりしない。来島海峡の旬は五月から六月半ばまで。
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