2005年10月号 掲載
第 81 回 道後温泉と坊っちゃん団子
道後温泉の坊っちゃん団子
今年、七月に道後温泉の湯代が値上がりした。三階個室は一二四〇円から一五〇〇円になった。内容の良さに合わせて値段がぐっと高級感を増したといえなくもないが、ちょっと痛い。
三階個室は八十分間の使用、浴衣とタオルが付き、湯上がりには「坊っちゃん団子」と輪島塗の天目に載せて、温泉で足を癒す鷺を描いた砥部焼の湯飲みで煎茶が出る。部屋は夏は北側が涼しくてよいが、眺めはホテル群が山を遮り、空も狭い。明るい南側の部屋が私は好きだ。温泉本館の美しい瓦屋根や湯神社の森が見え、寝ころべば空も広がる。一番広いのが手前の一号室、床の間の障子の向こうは二階からの階段だ。一番狭いのは一番奥の漱石を記念する「坊っちゃん」の間の向側にある五号室。床の間はなく布団部屋のような感じだが、眺めもよい。東側の障子の向こうは温泉の従業員の人が昇降する階段になっている。
さて、湯上がりに出された坊っちゃん団子である。値上がり前と味が少し変わった。甘さが心地控えめでやや小振り。色も少し濃くなった。聞いてみると「わかりましたか。四月から変わったんです。前のはつぼやさんのやったんですが、これはうつぼやさんのです」。つぼやの坊っちゃん団子を好むお年寄りなどには甘みが物足りないという人もあるそうだ。長年親しんだ味だからであろう。つぼやのほうが大きく、しっとりしたやわらかい味わいがあった気もする。お抹茶を頼んで見ると、干菓子も以前のものと変わっていた。季節にあわせた、鮎だとか紅葉だとかの目を楽しませてくれる干菓子が供されていたが、今度のものも季節を表現している。今日は銀杏。細工も味もよいと思う。
このところ、気のせいか道後も世代交代で、すべてがスマートで都会的になった気がする。案内の人も増え、親切で、てきばきとしていて決して悪くなったとは言えない。しかし、まったりした眠くなるような伊予の湯の雰囲気を愛する者としては、道後の湯の個性が少し希薄になった気もしないではないのである。帰りに、温泉のアーケード街にあるつぼやに寄って、坊っちゃん団子を買ってみた。甘さと色は記憶の色であったが、団子の大きさはうつぼやのとそれほどかわらなかった。
南側2号室からの風景
銀杏の干菓子は有家菓子舗製。
つぼやのは色が淡く甘みが濃い。温泉で出されていたのとは少し違う気もする。温泉街は火曜が休みの店が多い。
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