2000年04月号 掲載
第 36 回 お菓子屋さんとイタリア料理
トラットリア・アルベーロ
今治市南宝来町3-2-1
TEL0898-32-5292
トラットリア・アルベーロ店内
最近、西川治の『イタリア半島「食」の彷徨』という文庫本を読んだ。昔、東京の下宿で自炊生活をしていた頃、この人の『マリオのイタリア料理』という本を見て、スパゲッティをいろいろと作った。自分にあっていたのか、この手の本ではめずらしいことだが、それなりに、とてもうまくつくることが出来た。西川氏は写真家だけあって料理の写真も美しかった。文章も明快だ。何年かのちにミラノに行ったときには氏が推奨してやまない「ペック」という食料品店に立ち寄りチーズやオリーブ油を買っても見た。『マリオのイタリア料理』は今もなお我家の台所では大切な本だ。
さて、イタリアン流行の日本に来て貧弱になった風が見えるイタリア料理に槍をつけたこの文庫本も写真が美しいし、たいへんおもしろい。読んでいるとすぐにでもイタリアに出かけ、風土と分かち難いイタリア料理の美味を味わってみたくなる。
アラカルトの黒板
しかし、イタリアは遠い。なかなかそうもいかないので、今治に出かけたついでに、イタリア・フリークの知人が教えてくれた評判のイタリア料理店に立ち寄った。トラットリア アルベーロという名のこのお店は、今治ではよく知られた「yamada」というケーキ屋さんの二階にある。ご主人の山田修作さんは、毎年イタリアの各地に出かけ、お気に入りのリストランテを巡って味の研鑚におこたりがないという人。店名は樹木というイタリア語に因んだものか、エントランスやお店の中には緑が豊かである。
腰を下ろしたカウンターの席の脇の黒板に今日のアラカルトが書かれてあった。値段も手頃で、肉と魚のメニューがバランスよくならんでいる。私は赤のグラスワインをもらって、アンティパスティの盛り合せを食べた。文句のないおいしさだった。続けて渡り蟹のスパゲッティ。渡り蟹の旨味が生きたトマト味のソースで、麺は太めで茹で加減もいい。
黒板にあった真鯛のアラ・ガーリックソースを食べているとき、カウンターの隣に若い夫婦が坐った。奥さんが「このあいだ食べたのがとても美味しかったからもう一度食べたい」と言って車海老のリゾットを注文した。山田さんが「車海老のソテーもおいしいよ」とすすめると二人はそれも追加した。人は、美味しいものを食べると幸福になる。隣のお二人も幸せそうだった。
最後に、エスプレッソを飲みながらいただいたデザートのケーキもさすがに今治で八十年の暖簾を守る店の名に恥じぬものだった。
アルベーロのシェフ
山田修作さんご夫妻。
トラットリア・アルベーロ
トラットリアというと、大衆食堂とか、
学生食堂というニュアンスがあるという。気安く美味しいこの店にピッタリだ。
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