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2000年02月号 掲載
第 33 回 山谷と自由民権記念館のコーヒー 
高知市立自由民権記念館 
高知市桟橋通4丁目14-3 〒780-8010 
TEL088-831-3336 
土佐電鉄路面電車「桟橋」行き、「桟橋通4丁目」下車。
月曜休館。(月曜が祝日の時はその翌日)
※山谷については「山谷界隈あれこれ通信」ホームページがくわしい。 美味しい店も出ています。 「バッハ」ももちろん出ています。

高知市立自由民権記念館「人の上には人はなき 権利にかわりがないからは」 「生きて奴隷の民たらんよりは 死して自由の鬼たらん」「未来がその胸中に在るものこれを青年という」 「自由万歳」の大徳利、「自由」の泥めんこ、土佐は大人も子供も自由がいちぱん。
 先日、高知市に出かけ、桟橋通りの自由民権記念館に寄った。高知はノルウェーのオスロ市だとか世界の路面電車が走っている楽しい町だ。記念館は、その電車とならんで港に向かって走ればすぐにわかる場所にある。植え込みの中にある、植木枝盛筆「自由は土佐の山間より発す」という碑を見ながら入館。しかし、私がこの記念館に来たのは、実は、記念館にある喫茶店のコーヒーを飲みたかったからなのである。
 というのは、まったくもって、話が飛ぶが、昨夏に東京に出かけ、ある社会学の先生に、山谷の町を案内していただいたことが発端であった。「きょうのつとめはつらかった…」あの「山谷ブルース」で知られる山谷である。奥州街道の起点千住の宿に隣り合わせた山谷は、場末の町の哀愁となつかしさがしみじみと感じられる、街歩きの奥深い楽しみに満ちた場所として知る人ぞ知る町なのである。
 さんざん山谷を歩いた帰りに、先生は私たちを、広い通りに面した行き付けのコーヒー店に誘った。「バッハ」というその店で私は、山谷の世間的イメージを裏切る味と香りのコーヒー、そしておいしいケーキとバッハの音楽に出会ったのである。
「バッハ」のご主人は業界の第一人者として活躍され、全国からコーヒーを学ぶ若者を受け入れて教育もされているという。私が四国に住んでいる話をしたところ、四国には高知市の自由民権会館にある喫茶店にお弟子さんがいることを教えてもらった。というわけで私はここに来たのである。
 さて、受付で入館料を払った。すると、係の若い女性が明るい感じで「説明するものがおりますからごいっしょさせましょうか」と言う。コーヒーが目当てだったから、ちょっとひるんだが、「じゃあ、よろしく」ということになった。きっと謹厳なリタイヤした学校の先生のような方が出てきて、窮屈な説明を延々とされるんだろうなあなどと少し心配していたら、驚いたことに、説明をしてくれるのは、その女性の隣に座っている女性だという。私の気分は、一気に軽やかになった。結局、館内を四十分ほど、解説付きでじっくりと見せてもらった。現金な話ではあるが、館内の展示はとても興味深いもので、日本国憲法の先駆け、自由の先達、土佐の誇りがひしひしと感じられた。
 案内の女性は、高知を訪れた岸田俊子という、私などは聞いたこともない女性の自由民権家のパネルの前で、「この京都の女性のこと、ご存知ですか」と質問を促すなど、自信と親切に満ちた見事な解説ぶりで、ほんとうに感心した。解説の言葉に土佐の言葉の訛りが聞えたのもうれしかった。
 さて肝心のコーヒーである。喫茶店は一階ロビーの奥にあった。喫茶「リバティー」とあるが、喫茶店というよりはホテルのロビーでコーヒーを飲むという感じだ。待つこと七、八分。供されたのは、香りも味も紛れのない「バッハ」のコーヒー。うまい。隣の席の客がおいしそうに食べているショートケーキをそっと見たら、これもまた「バッハ」仕込みの堂々とした大きさのものである。
 帰りに、コーヒーを入れてくれた女性に山谷の「バッハ」の話をしたら、なつかしそうな表情をして、とても喜んでくれた。こういう箱ものでは退屈以外に感じたことがないのだが、きょうはほんとうになにもかもがよかった。  
 
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