2006年04月号 掲載
第 87 回 はるちゃんの天ぷら
宇和島市吉田町奥浦
厚みがあって心地大きめ。とにかくおいしい。
宇和島市吉田町の奥南運河にかかる奥南橋を渡り、奥浦漁港にさしかかったとき、「はるちゃんの天ぷら」という小さな旗が目に付いた。「はるちゃんの天ぷら」には覚えがあった。それは、私の家の近所の吉田町観光文化センターの売店で、週に何日か売られている「じゃこ天」の名であった。南予では、魚のすり身を揚げて作った、いわゆる「じゃこ天」を「天ぷら」と普通に言う。子供のころから、天ぷらというと衣を付けた方よりこっちの方が、最初に浮かんだし、実際に口にする機会も多かった。色の白い「身天ぷら」と、皮まで一緒に擂った素朴な色の黒い「皮天ぷら」の二種がある。最近は、南予でもじゃこ天と言う人が多いが、私などは、じゃこ天というと、どこかよそ行きの感じがする。さて、その「はるちゃんの天ぷら」を私は、思いついたときに、時々買って食べていたのである。大量に作ったものと違い、柔らかすぎす、かた過ぎず、適度な歯ごたえと、材料の新鮮さがすぐにわかるおいしさが格別で、わが家に限らず、近所でも評判になっていると聞いていた。車を止め、あたりを見回したが、プレハブの倉庫やコンテナのほかに店らしい建物も見えなかった。漁港の奥まで入ってみると、さらに数本の旗が突き当たりに見え、奥におばあさんが立っていた。試しに「天ぷらありますか」と声をかけてみたら、あっさりと「ありますよ」という返事が返った。おばあさんに従って奥の小さな建物に入ると、そこが、はるちゃんの小さな天ぷら工場だった。観光センターだけでなく、木曜から日曜まではここでも、天ぷらが買えるということだ。一枚百二十円。
材料のはらんぼうをこねる鉢
はるちゃんのコンパクトな天ぷら工場
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