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2006年09月号 掲載
第 92 回 地鳥の味
 
  
 

 
 内子からの県道二二九号線が大洲からの国道一九七号線と交わる信号を過ぎて、肱川沿いにしばらく走ったところに山家風の地鳥焼きの店がある。気軽な昼食には向かないから、滅多に行かないが、年に何度か、肱川の眺めのよさとシンプルな醤油味のタレに浸して炭火で焼く、こりこりした地鳥の味わいを思い出して出かける。比較的知られた店で、「松山百点」などにも取上げられているのを見たこともある。
 板の間の囲炉裏か、椅子席の囲炉裏に熾きた炭火で、添えられた芹と一緒に、自分で焼いて食べる。私見に過ぎないが、定食で注文すると、心地、地鳥の量が心もとない。地鳥焼一人前とご飯をたのむと、しっかり食べた感じがする。それでも足りぬと思う人はもう一人前追加すればいい。すなぎもも、好きな人にはおいしいと思う。
 この店は値段が高いという声を聞くことが多いが、それはうどんを食べるか、ステーキを食べるかと言ったTPOの問題ではないかと思う。地鳥の味は格別だし、育てる手間を考えれば、地鳥焼一人前一五〇〇円は高いとは思わない。最初に訪れたころは、店のしつらいが際立っていて、板の間に飾られた書の個性を強く感じたが、先日出かけた時は、落ち着いた雰囲気で地鳥を味わうことができた。


地鳥焼一人前

庭から肱川が見える。対岸の護岸工事が進み、少し開けた。

 ただ、この店は車で行くのが一般だろうから、運転手はビールを一杯というわけにはいかない。一度食べた親子丼は、好みの問題ではあるが、汁気が多く、味付けの良さはともかくとして「親子丼」としては、行列ができる人形町の玉ひでを挙げるまでもなく、今一つと言うのが私の感想だ。
 結局、ロケーションも含めて、地鳥の味に引かれて、小藪温泉の帰りに思いついてというくらいになってしまう。
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