読みたい本:
2008年10月号 掲載
カラー版 四国八十八ヶ所
- わたしの遍路旅
石川文洋
著岩波新書(本体千円+税)
石川文洋『四国八十八ヶ所』
鴇田峠への遍路道
ベトナム戦争の報道写真で知られ、「戦場カメラマン」(朝日文庫)の著書もある石川文洋さんの歩き遍路の本だ。石川さんが遍路の旅に出かけた動機は、同じ仕事をしながら非業の死をとげた多くの報道カメラマンの慰霊だった。歩きながら、自らの人生を振り返り、ベトナムやカンボジアの戦場で石川さんが撮った写真の被写体にもなった、多くの無辜の人々の死の意味も考えている。旅の途中、心筋梗塞になるが、入院治療の後、再起して再び歩き始める。その病を克服する戦いの旅でもあった。
遍路旅で出合った人や風景の温かく生活感のある写真にまじえて、本書に納められている戦場の写真やコラムを読むと、石川さんの旅が、経験した人にしか理解できない重いものを背負った旅であることは想像出来る。しかし、歩き遍路の旅についての描写はあくまで、平たく、どちらかというと平凡である。遍路宿の食事のおいしさや旅で出合った人の親切に対する喜びが気取りもなく、さらっと書かれている。それがいいと思った。
石川さんの、報道写真とは、トーンがちがった、命のいとおしさが、じんわりと感じられるスナップ写真を見ていると、自分も少し歩いてみたくなった。ふらっと自転車で出かけ、内子から久万まで石川さんが歩いた鴇田峠越えのルートを歩いてみた。台風一過の快晴。細い上り道が小川のようになっていたり、蛇に出くわしたりしたが、気持ちのよい道だった。料理がおいしいと特筆されている広田村の「えびすや旅館」にも一度泊まってみたいと思った。
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