読みたい本:
2001年01月号 掲載
『惜 春』
井上 明久 著
(河出書房新社刊行 定価本体1,700円 税別)
本欄に毎号書評を連載中の作家、井上明久さんが長編小説の第二作『惜春』を上梓された。
中扉の裏の副題に「あるいは、小さな雛罌粟のように」とあるように、京都から始まりやがて主な舞台が東京へと移り変わる結構を漱石の『虞美人草』に借りたこの『惜春』は、どこか懐かしく、それでいて不思議な新しさを湛えた恋愛小説である。ミステリアスな魅力を秘めた美女の謎を追って展開される物語は、官能的とも言える高揚と感動を読む者に与えずにはおかない。
藪野 健画
そして、『惜春』はまた、 前作『佐保神の別れ』と同じく、推理小説的な味わいだけでなく、都市小説的な広がりをあわせ持った小説でもある。古都京都ともに、本誌新春特集「子規と東京」に井上さんが描かれた本郷界隈や、子規の墓所大隆寺のある田端文士村などが小説の舞台として見事に描かれているのである。
(編集人)
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