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2006年12月号 掲載 
ラグビー・ロマン
- 岡仁詩とリベラル水脈
後藤正治 著


 本書は、1960年代前半に同志社大学の第1期黄金時代を築いた岡仁詩監督のラグビー人生を軸にした、物語日本ラグビー史ともいうべき本である。岡仁詩という人に焦点を合わせることによって、ラグビーというアマチュア・スポーツがどのようにして日本で育ってきたのかが浮き彫りにされている。
 副題にある「リベラル」という言葉は、同志社ラグビー部の際立った個性をあらわすキーワードである。大学ラグビー界で、横に展開する早稲田、縦に突き進む明治に対して、縦横自由自在の同志社は、つとに戦い方だけでなく、チームカラーも、個々の責任の上に立ったリベラルで自由な気風を持つとされてきた。
 岡をはじめとする同志社ラグビー部の指導者たちが絶えず追及した、新しい戦法の創造、学生個人を主体とするチームづくり、学生に対する深い愛情に満ちた教育的視野、それらの底に通奏低音のように聞こえてくるものこそ、リベラリズムの思想であると著者は言う。
 ところで、私がこの本を手に取ったのは、著者が岡の師であり、愛媛に深い関わりのある星名秦に同志社リベラルラグビーの「源流」として、敬意に溢れた一章を捧げていたからである。
 その星名秦は、明治37年、米国テキサス州ヒューストン生まれ。古い話だが、昭和3年京都帝国大学ラグビー部が早稲田大学を破って全国制覇したときのキャプテンである。正確なパス、巧みなサイドステップや、カットスルーで世界に通用する名センターと称賛された。ニュージーランドや豪州のラグビー資料をいち早く取り寄せて翻訳紹介、体格体力に劣る日本人が外国人に勝つための戦術創造に力を尽した。この点では早稲田の大西鉄之祐にも強い影響を与えている。
 星名は満鉄勤務時代にはジーゼル特急アジア号を開発し、大連機関区長時代に無事故走行距離320万キロを達成したことでも知られ、シベリア抑留後、戦後は同志社の総長も務めた。


 その星名の父謙一郎が伊予吉田藩3万石の士族、星名幸旦の長子であった。謙一郎は、明治30年代にハワイを経て米国テキサスへ、さらに南米ブラジル、サンパウロで日本人植民地を開拓した。そして、星名の母ヒサは西予市宇和町卯之町の末光家の出身。つまり、星名秦の両親は伊予の吉田と卯之町にという南予にルーツを持つ人たちであった。この書は、南予にルーツを持ち、日本ラグビーの国際化にむけ、先駆的な試みをしたリベラリスト星名秦の生涯を知る上でも一読する価値があるといえば言い過ぎだろうか。
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