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1998年06月号 掲載 
『死はわが隣人』
 
コリン・デクスター/大庭 忠男訳
 (早川書房刊(1,300円+税) ) 


 既に「モース病」に罹っている人は、幸福である。まだ罹っていない人は、もっと幸福である。何故なら、これからどれほど重症の「モース病」に罹るかもしれない可能性があなたの将来に待っているのだから。
「モース病」とは何か? イギリスの作家コリン・デクスターが生み出したモース主任警部なる人物に圧倒され、魅惑され、呪縛され、挙句の果ては、この芳醇で強烈な、それ故に毒もある酒(いや失礼、本)がなくては生きて行けなくなることである。
 第一作『ウッドストック行最終バス』から第十二作の本作品『死はわが隣人』まで、どれも超一級ミステリの味わいを持っている。活々とした風俗、ユーモアと洒落に満ちた会話、不思議で興味深い人物達、そして意外な、余りにも意外すぎる謎、謎、謎……。シリーズだからといって順番に読まなければと硬くなる必要はない。まずは本書から。さあ、これであなたも立派な「モース病」患者だ。

井上 明久(作家)

 
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