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2001年09月号 掲載 

完全リサイクル実験住宅 
早稲田大学理工学総合研究センター九州研究所
 
八月末、北九州市若松区の早大理工学総合研究センター九州研究所を訪れた。
建築雑誌やマスコミでも特集され、注目を集める「パーフェクト・リサイクル・ハウス(PRH=Perfect Recycle House)」プロジェクトの実験住宅を見るためである。

リサイクル百パーセント
 普通、住宅のリサイクル率は十パーセントを下回るという。
 早稲田のこの実験住宅が注目を集める一つの大きな原因は、先頃の解体、再建の実験で建築資材のリサイクル率ほぼ百パーセントを達成したことにある。
 来年には、建設資材リサイクル法が施行され、木くず、コンクリート、アスファルトのリサイクルが義務付けられる。ミンチ解体と不法投棄がいまなお後をたたないという現実を、法の力で一気に改善しようというものだが、法の規制よる改善は所詮対症療法でしかない。本を断つというのが、やはり健全な行き方だろう。この早稲田のPRH実験住宅は、昨年十月に一旦竣工した後、約二週間かけて分別解体され、回収した同じ部材を使って約五十メートル離れた場所に全く同じ形に再建された。ガラスと鉄に加え、プラスチックなど高分子系材料を使用してリサイクル率ほぼ百パーセントを達成することができたのだという。

アジア諸国でつくる

研究の中核を担う福田展淳北九州市立大学国際環境工学部助教授・早稲田大学客員講師に案内してもらった。
 完全リサイクル住宅のプロジェクトリーダー尾島俊雄早稲田大学教授は、すでに工業化住宅の産業が定着している我が国において、早い時期に完全リサイクル住宅が普及する可能性が低いことをはっきりと認める。それよりも、鉄やプラスチックの安い韓国でリサイクル住宅の部材を作り、中国で量産して売るなど、日本以外のアジアの国々で先ず実現し、日本に環流する可能性が大きいという。中国の留学生がこのプロジェクトで大きな役割を担っている。彼らは中国の都市再生に完全リサイクル住宅が大きな役割を果たすことを信じて研究を続けているのである。

実験住宅
さて、その実験住宅である。外装はすべて屋根も含めて厚さ八ミリのガラス張り。安全上、飛散防止のフィルムを貼りつけてある。ガラスは丈夫で長持ちし、リサイクルも簡単だと福田助教授は言う。断熱材、ボードやクロスの内装材はすべてペットボトルのリサイクル。北九州の響灘エコタウンで稼働中のペットボトル再生工場から供給されたものだ。設備は深夜電力使用の全電化エネルギーシステム。工場で、ガラスと断熱材、内装材を組んで縦三メートル、横二.四メートルの規格化したアルミ枠のパネルにする。それを現場でボルトとビスで組み立てる。床、天井、間仕切り壁も同一規格でパネル化されている。間取りも自由に変更できるし、パネルだから、解体作業も容易で、リサイクル・リユースの作業もスムーズに進む。基礎は免震システムを導入した完全リサイクルコンクリート。内装仕上げ材の固定には接着剤ではなく両面テープが使用されているがこれも、解体とリサイクルを容易にするためだ。

パーフェクト・リサイクル・ハウス

完全リサイクルハウス都市立地型
21世紀の住宅の理想像として、リサイクルのために徹底的な材料と工法のシステム化が追求されている 他、雨水利用システムなど資源循環の工夫もてんこもりされている。 現在、学生が住み込み、生活実験と計測が続けられている。

ダブルスキン空間
この実験住宅には庇がない。しかし、ダブルスキン空間が設けられていて、煙突効果で暖められた空気が屋根裏から排出されるようになっている。

地域再生の決め手
 完全リサイクル住宅は実験段階で、まだ、どこにでも建てて、普通の暮らしがすぐに始められるというものではない。しかし、資源循環型社会形成に向けた完全リサイクル型住宅が大きく現実に近づいたことは事実だ。この研究に多くの企業が技術と素材を無償で提供し、文部省も大学の一研究室に五年間で四億円もの研究費を拠出した。産官学の共同が見事に機能したこともすばらしい。尾島研究室はこの都市立地型住宅とあわせ、すでに富山県で山村立地型実験住宅を完成している。こちらは木造で伝統的な民家の手法を採用、施工は職人さんの大学として注目を集める富山国際職芸学院の学生たち。金物を使わず古来の「継ぎ手」で太い木材同士をかみ合わせてつなぎ、もみ殻入りの土壁に漆喰仕上げなど自然素材で作った家だ。
 この二つのリサイクル住宅のプロトタイプは、二十一世紀に住宅産業が基幹産業として発展し地域再生の決め手となる可能性を孕んでいると思う。今後の行方に注目したい。
 
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