2000年09月号 掲載
小林朝治展開催!! 「心のふるさと 吉田を描く」
北宇和郡吉田町
小林朝治自画像
吉田町の国安の里で、昭和初期の吉田町の風景をとらえた油彩五十六点と版画多数の展覧会が開かれている。
画家は小林朝治という。信州の須坂で生まれ、北陸金沢の医学校を卒業し、しばらく母校で助手を務めた後、昭和二年二月、吉田町立病院の初代眼科医長として赴任した。
昭和六年七月までの約四年半を吉田町で過ごした朝治は、二百年続いた陣屋町の歴史の風格と都市的な雰囲気とが入り交じった吉田の町並みの魅力、そして、南国の陽光あふれる自然と温かい人気(じんき)にあっという間にとらえられてしまう。医療活動のかたわら絵を描き、版画を彫り、俳句や詩をつくる。赴任してわずか二ヶ月後には朝治が中心になって吉田町九曜会洋画展をひらき、翌年には、仲間たちと王賓屯(おうひんとん)クラブというわけの分からない名前のサークルをつくり、久米正雄原作の「幸福」を試演したりする。当時、吉田の町は製糸と蜜柑の町として経済的にも活況を呈し、吉田港には大阪行きや別府行きの船も寄港していた。
朝治が描いた七十年前の吉田の姿はずいぶん変った。しかし、山容や町割までが消えたわけではない。自分達の住む街の風景がこれほどの温かい眼差しをもって見つめられていたことを確かめることができるのは吉田を故郷とする人にとって得難い喜びであろう。
朝治は若く貧しい頃の畦地梅太郎と交友があった。ときたま上京して畦地の下宿を訪ね、黙って畦地の版画を買いとって援助したと畦地が書き残している。版画では生前すでに一家を成し、今回展観されている「鶴」などは、『気まぐれ美術館』の洲之内徹も絶賛した。しかし、早世したために、画家として一般に知られることはついになかった。ことわるまでもないことだが、技巧にすぐれ、名の知られた画家の絵だけが人に感動を与えるのではないだろう。吉田の風景に対した画家小林朝治の無垢の情熱には大きな力がある。絵を愛する人であれば、見れば判るはずであると思う。
八月一日に始まって一月、まだ訪れる人が少ないと聞いたが不思議なことである。立派な国安の里の施設ともども、とても残念なことに思う。今年の十月二十九日までという異例に長い展観であるから、繰り返し、繰り返し、できるだけ多くの人にこの充実した画業を見てほしいものだと願っている。
小林朝治展 吉田町国安の里にて10月29日(日)まで
9:00―16:30 TEL0895-52-4884
入場料 大人200円・中学生以下100円
9月の休館日4・11・18・19・25・26日
版画「鶴」
春の吉田港
みかん山
命永山(ちながさん)之図
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