2001年05月号 掲載
開明学校のピアノ
東宇和郡宇和町
卯之町の国指定重要文化財、開明学校の二階にいつの頃からか老朽化し、音が満足に出なくなったグランドピアノがひっそりと置かれていた。
大正十三年、東宇和高等女学校に保護者たちが寄贈したピアノで、由緒正しき、ドイツのライプチッヒ製である。
誰からともなく、なんとか修復して、なつかしい昔の音色を聴こうという呼びかけが起きた。すると、すぐに町内外の二千人の人々が応え、修復に必要な資金が集まった。
三月二十日には、修復が終わったピアノを使って、早速、お披露目コンサートがあった。東宇和高等女学校の卒業生たちが集まりピアノ伴奏で校歌を斉唱。中町の子供達もピアノと一緒に楽器を演奏した。
古いものは捨てて顧みないご時世である。効率を追い、ものを値踏みする考えにつくなら、新しいピアノを買った方がよいのは誰にでもわかる。が、宇和の人たちは、そうしなかった。卒業生の気持がこもった懐かしいピアノはなにものにも替え難い、直して大切につかおうという考えに多くの人が共鳴した。
過去から受け継いだ町並みや自然を大切にして、次代に伝えていくのと同じだ。年を経て、歴史を刻んだものは一通りではないし、便利でもない。しかし、温かく、豊かで深い。だから美しいのだ。こんなことがすぐに出来る町はそんなに多くはない。